第42話 ネットアイドル?十六夜姫

(えっと黄泉送り黄泉送りっと)

 いきなり本番でうまく飛ばせるか不安だけど除霊の水は効かないからこれしか方法はない。


 狸の姿が見えた、霊に記憶はない筈だけど一応お母さんの陰に隠れる、いやお母さんの仏様オーラの方に気づかれてしまうかもしれない。

 それでも逃げるのに必死なのかそのままこっちに向かってくるのをお母さんの

 肩越しに見た。

「お母さん狸が止まるように祈って」

「わかりました止めますよ」


 すごく気合の入った言葉。

 狸はすぐ目の前、ぶつかっても霊は幻だから通り抜けるられるけど憑りついてるモノは実態がある、今は見えないから小さな昆虫かもしれないがそれでも物があれば除けなければ通れない。(ただ霊が見えない人でも幻部分に触れただけでぞくっと感じたりする様だ、私は見えるから体の中を通られたくはない。)


 お母さんの目の前でお母さんを避けようとする霊をお母さんはガシッと片手で掴もうとしたがやっぱり通り抜けられた。

 だけどその後なぜかズテッと転んだ。

 (チャンス)

 転がった狸の霊に向かって、

「黄泉送りー」

 気合いっぱい貯めこんで指をさして叫んでみた。

 

 狸は一瞬ハッと自身の体を眺めたが慌てて立ち上がり駆け出そうとした。

 がなぜか止まったまま、誰かが駆け寄ってきた。

 背の高い白い顔の女性がいきなり霊を掴んだ。

「送ります」

 掴んだ霊を空に投げ飛ばす、霊はあっという間に青空に消えた。


「ありがとう、手間が省けたわ見えるの?」

 目の前の人が聞いてくる、歳は二十歳くらいだろうか随分背が高い、そして走ったせいか幾分顔がピンク色。

(わー奇麗な人)

「あっはい追いかけていたんです」

「へえー送れるの、そういう人初めて会ったわ」

「あっし、失敗しました手ごわくて、あの陰陽師とかの方ですか」

「あっ私も君のことそうかなって思ったけど違うの」

「私は尼の、、、まだ見習いです」

「へえ尼さんか、私は、、、送る役目を授かった者よ、陰陽師とか関係なく、、宇宙の力で飛ばすの、理屈は分からないけど」


 阿弥陀様に興味があるお母さんが聞く。

「阿弥陀様のお力?」

「んー会ったことないし、こんな血筋らしいけどよく分からない自分の事も」


 横から声がかかる。

「月の姫様でございます、それから今やったのは悪霊退治じゃなくて黄泉返し新しく生まれ変わるために黄泉に送ってあげたのよ、霊には感謝してもらわなくちゃ」

 なぜか忍者スタイルの黒装束で素早い動きが出来るの?と思えるぽっちゃり、いやがっしりした体形のお姉さん。


「人前で姫なんて呼ばないで、それでなくてもツンデレって言われているんだから」

「そりゃツンデレ日本一の姫様をツンデレと呼ばなくては誰も代わりはいませんもの」

「もういい、(こっちに向き直り)であなたは生まれつき送る力を持ってたの」

「い、いえつい最近ある人から授かって今日初めて使ってみたんですけど、、、」

「空振りしちゃったね、憑りついてる本体ってわかる?」

「はっはいでも今のは小さかったのか見えませんでした」

「見えなくても本体さえ有ることが分かっていれば問題は無いわ、えっと君はここの町の子?」

「はいそうです」


 姫と呼ばれた人はさっきの体格のいい人とこそこそ話す。

「私は青空市って知ってるそこに住んでる、悪霊が出たらあちこち飛び回ってるの」

「青空市ちょっと遠いですね、お仕事なんですか」

「まあ仕事といえば仕事かな、今は中三なんだけどね」

(うそーって嘘つく理由はないだろうし)

「ああのごめんなさい大人の人かと、、、」

「まあほとんど制服着てないと中学生に見てもらえない高校生にも」

「ごめんなさい」

「だからいいって、ねえ影丸私たち以外にもこういう事してる人っていたのね」

「おいらも初めてですよ見かけたのは」

(お、おいらですか)


「あっ名前言ってなかった十六夜いざよいって呼んで営業ネームだからさん付けいらないし、霊の事で困ったら電話して授業中じゃなかったら飛んでくる、とりあえず名刺渡しておくね」


 何とこの女子中学生名刺を持っていた「霊でお困りのこと解決します青空霊園心霊担当  十六夜いざよい」裏には「墓地斡旋 撤収賜ります 青空市一望の花と緑の青空霊園」と宣伝文句も書かれて。(しっかりお仕事なんだ)


「お母さん青空霊園の人なんだって」

「あらお寺のお仲間さんなのね」

「実際は社員じゃないんですけど仕事を分け合ってる感じ、霊の相談事って割とあってそっちは私達が担当なんです」


「ああの私は五來ごらい五來善繡ぜんしゅうって言います、今日もお仕事なんですか」

「今日は特別よヤバい雰囲気だったから急いで学校抜け出して、だけど依頼主が居ないからボランティアよ、ヤバそうなやつだからほっとけなくて」

「えーと依頼主が居たらお金を頂くって事?」

「そうよ表向きは悪霊退治って事で請け負うの、私以外のこの人たちは生活掛かってるし交通費とか食費が掛かる、宿泊が必要な時は市の伝手つてで公民館とか用意してもらえるけど」

「そっか生活かかっているんだ」

「でもねお金は有るところから貰う、ない人からは貰わないよ」

「はあ成程、お金持ちならいくらでも出しそう」

「そうでもないよ、頼むときはいくらでも出すっていうけど終わったら時給二千円とか一人頭一万円とか、探してる時間何日も掛かってるんだって分かってなくてけち臭いこと言うの、呪われますって言ったらポンと出してくるしバッカじゃないの」

(さすがツンデレ姫)


「姫様そろそろ朝食にしませんか」影丸って呼ばれた人。

「いいけど何が有るの」

「いえ何も急いで出発したので」

「じゃあ食費は出るのね」

「それがお昼の分だけ一人300円です」

「遠足のおやつじゃあるまいしそれでどうしろと?」

「もちろん稼ぎのいい姫様以外お金持っていません」

「あれは私のプライベートよ、それにお小遣い程度当てにしないでよ」

「何をおっしいますのネットでバカ売れアイドルじゃありませんか」


(アイドル!やっぱり普通の人じゃあなかった)

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