第40話 神様の言う通り

 古くてぽつぽつしかない商店街を進む。

「ここが私の修行の場所」

 古ぼけたお店の前に立つ。


「ここ!えーとお客さん来る?」

「人は来ないよ、来るのは妖しか神様ね」

「妖しさん、来ない事を祈るわ」

「大丈夫だよ危ないモノがいるときは私はここに来れないって、入れなくなるの」

「ほお、じゃあ入れたって事は安全なのね」


「そうでもない」

 後ろから怖い声がした、興津姫おきつひめ

 声は怒っているが姿は幼い女の子。


「ごめんなさい、変なもの持ってきちゃった、璃子こちらが神様の興津姫、興津姫この子は...」

 遮られた。


 璃子が話そうとしても、

「黙っていろ祓ってやる」


 右手をひらりと外へ振ると璃子が倒れそうになり興津姫が受け止めた、私が右手に掴んでいたものは消えていた。


「キメラコーヒーを淹れて」

 興津姫は璃子を軽々と背負ってドアを開けた。


 中へ入って、

「興津姫この子どうなったの?」

「うるさいから眠らせた元に戻ったら厄介そうだし、まずコーヒーよ」

「はいはい」


 サイフォンをセットしながら、

「戦利品と思って持ってきたけど役に立たなかった?」

「そんな事なくってよ、相手の居場所を突き止める探知機として使えるわ」

「誰が使うの?」

「キメラにしか使えない」

「髪の毛じゃだめなの」

「あれは近くに居るものの気配を感じとる、これはこの町全体使いこなせば月に居ても目的の者を探せる」

「月!頭がもつかな」

「鍛錬が必要だわね」


 カップにコーヒーを注ぎ興津姫のテーブルに運ぶ。

「座って」

「う、うん」

 興津姫の向かいに座る。

「こいつ邪魔だわ」

 それでももたれかかっている璃子を避けたりしないが不機嫌の様だ。(今の姿の子供そのまま)


「これが探知機」

 興津姫の手に黄色いリボンが現れた。

「リボンの髪飾りみたいだけど」

「そうよ私の愛情表現、そのまま前を向いていて」


 私の耳の上辺りの髪にリボンを乗せると髪にリボンがくっ付いた。

「?何も感じないけど」

「探そうとする相手を思い浮かべる」

「うん大きいタヌキ」

「見つかれば方向と大体の距離が分かる、探す相手を信太しのだにしてごらん」

「あっこっちの向きえっと八百屋さんかな」

「さすがねそんなに早く風景まで読み取るなんて直ぐに神になれるレベルよ」

「当分人で居させて」

「惜しいわね、あまり長く使うとぶっ倒れるわよ、必要な時だけ」

「う、うんそんな気がする何分くらい大丈夫?」


 興津姫が私の頭からリボンを外して、

「初めのうちは3分くらいね、3分経ったらピコピコ音が出るようにしておくわ」

「カップラーメンのタイマーみたい」

「違うウルトラマンよ知らなかったら検索、まずは一分から」


 そう言ってまた私の頭に乗せテーブルの上に載せていた私の両手を一つにまとめ両の掌に包む。

「キメラは悪いものに強いけどこういう子に弱いのね、いっそ興津彦の嫁にしちゃおうかな」

「えっっと何の話なの」

「この子危険だわキメラを狙ってる」

「えっ璃子が私をどうするって言うの」

「どうもしないわあなた達の年頃は男の子よりカッコいい同性に憧れたりするの」


 頭の上でピコピコ鳴った。

「触ったら止まるから、そのまま止めたい時間を伝えなさい」

「3分、これで良いの?」

「伝わったら3分に変わっているわ、それが出来たら止まれ動けの操作もできるでしょう」

(璃子の事は触れない方がよさそう)


「でもこれでタヌキを見つけても退治できないけど」

「そうね今まではキメラの優しい気持ちで黄泉に向かってくれたけどあのタヌキは悪霊だから聞いてくれないわ、指をさして気合を入れて『黄泉送りー』って唱えるの、これも鍛錬が必要よ向こうに戻ってからやってみて」


 今の『黄泉送りー』は指をさされていたらほんとに送られそうなほど気合が入っていた、神様だから気合入れなくても送れるだろうけど。


 横を見て「こいつ送っちゃおうかしら」なんて物騒な言葉をもらす。

 ここで必死にお願いしたら逆効果になりそうだから、

「いまは見習助手で助かってるから取り上げないで」

 と軽く言っておく。


「役に立ってるの」

「タヌキの気配は分かるみたいで私より先に見つけてくれたの」

「へー唯のインチキ巫女じゃないって訳」

「巫女に役に立つか知らないけど割と早く見つけてくれる」

「昔はそれが巫女の役割だった、危険を察知して皆に知らせるの中には退治する者も居たのよ」

「そうだ忘れたけど大昔のお話でそんなお話があったと思う」

「そういう力で人々を守ったの、キメラもそういう人になれるのよ」


 そう言われたら今の自分の立場が分かった気がした。

「あっそういう事なのかでもなれるかなあ誰かを守るってそう簡単に出来ない」

 興津姫にもたれかかっている璃子を見ながら言う。


「あなたが居なかったらこの子はもうこの世に居ない、キメラの腕を上げるために役に立ってもらいましょ」

「えっと役立つって言うのは?」

「おとり、悪いものを呼び寄せる餌よ」

「餌まあ目立つしね」

「巫女って言うのはね彼らにとって敵であって一番身近な餌でもあるの」

「だから狙われやすい」

「そうだからキメラは手を抜けなくてどんどん腕を上げるのよ」

「大変な役目与えられちゃった、夜まで面倒見れないんだけど」

「大丈夫よ、髪飾りでこの子をキャッチすれば周りに危ないものが居ないかチェックできるし離れていても「消えろ」で悪霊から見えなくできる、邪魔になれば消し去る事も出来るわよ」

(あーとことん嫌われてるよ)

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