第36話 お仲間?

 興津姫が私の後ろを右から左に移動した音を立てず。


「いま興津姫後ろを通った」

「そうね私歩いてないけどどうしてわかったの」

「んー気配かなあ」

「そう気配を感じたの慣れてくれば誰か分かる、上達すると友好的とか敵対心とか気持ちまで読める様になるわ」

「わあ第三の目みたい」

「そうそれよ、でも四六時中やってたら頭おかしくなるから程々にしなさい」

「あ、なんとなく分かるそれにいつでも警戒なんてやってられないよ」

「分かっていればいいわ、コントロール出来るようにもなれるから」


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 狐横丁を出て渡された紙の人形ひとがたの付いた木の枝を手近の電柱に押し付けるとテープで止めたようにピタッと張り付く、興津姫によればこの枝に霊が集まってくるらしい。


 らしいじゃない、すでに集まってきた続々と、今は通行止めにしてあるから良いけどこんな所に人が来たら気分が悪くなるだけで済みそうにない、、、いや通行止めになっていてもここに住んでる人が居る、此処に帰ってくる人も居るんだ。


 隣の電柱まで歩きながら人が居ないか確認する、昼間だというのに人っ子一人居ない好都合、此処の電柱にも木の枝を張り付けるとすごい勢いで霊が集ってくる。


 始めの電柱に戻りながら気が付いた(あれ水鉄砲?)。

 肩に掛けたはずの水鉄砲が見当たらなかった、筈なんだけどいつの間にかちゃんと肩に掛かっていた、まあ気にしないでおこう神様の道具だ使わない時は消えてる方が都合が良い。


 取っ手を押し込むと勢いよく水が飛び出す、霊が集まっているからか広がらずに狭い範囲に勢いよく飛ぶ。

「ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」


 お経を唱えながら浄化の水を撒く、お昼なのに薄暗かった通りに日の光が差し込んできた。

 さっきまで勢いよく飛び出していた水が霧の様に広がり太陽の光を反射してキラキラ輝く、もう二度三度取っ手を押し込むと辺り一面に霧が広がりその全てがキラキラと宙を舞う。


「きれい、、、」思わず声を漏らしそして反省。

「ごめんなさい、綺麗なんて言ってる時じゃなかった、みんなつらい思いをしてきたのにね、もう恨まなくていいからね、あなたたちを苦しめた人間は地獄に落ちたの、今頃は皆に謝っている筈よ、何千回何万回謝っても許してはもらえないけどね、だから苦しかった事辛かったことは忘れて天国へ旅立って、恨みを持ったままでは天国に行けないからみんな忘れて旅立って、ぎゃていぎゃてい はらぎゃてい はらそうぎゃてい ぼじそわか」


 私も自分が蒔いた浄化の水のキラキラに包まれていると自分が何をしているのか分からなくなってきた、ただ回り全部キラキラ光る世界。


(私はここで一体何をしているの)


すーーーーと光が静まって行った、商店街の風景が目の前に広がっている、さっきまでの薄暗く夕方の様な風景ではなく真昼のまぶしい商店街。


 まだ終わったわけじゃないけどかなり浄化出来たんだろう、陰気な雰囲気が消えていた。


「ふう、って溜息付いてる場合じゃなかった、向こうにもたくさん集まってらっしゃる」

 ここも同じように水を撒いて除霊する、もう動物の霊の姿は見えなかった。

(でもどこかにまだ残ってもおかしくない)


 商店街の南の入り口まで戻り人形の付いた木の枝を張り付ける。


次は真ん中あたり、最後は商店街の終点と三か所に木の枝を貼って明日の朝様子を見ることにする。


 辺りの様子を伺っていたら後ろから女子に声を掛けられた。

五來ごらいさん」

「あっ国宝くにかねさん、えっとお買い物?」

「そうよそしたら私好みの女の子が居たからナンパしちゃおうかなって」

「えーと、、、」

「そういう時は『やったー』か『間に合ってます』って言えば切り抜けられるのよ」

「ハードル高いなあ」


 国宝さんは辺りを見回して、

「まあまあ、で何やってたの男子なら絶対不審者通報されてるよ」

「えーそんなに挙動不審だった」

「だっただった、まるで獲物を物色している様だったわ、ほらあっちに居る三人組真ん中の子お勧めね」


 国宝さんの視線の先に三人の男子高校生がいた。

「高校生だけど、、、」

「そりゃそうよ同級生なんてガキもいいとこ、大学生ともなったらエロ過ぎだし」

「ごめん恋愛話ムリ、気持ちまだ小学生抜け出してない」


 国宝さん私の頭のてっぺんから爪先まで見下ろして、

「そっかまだ人生経験5年か6年だったっけ」

「うん、小学一年生くらいかも」

「そっかそれで可愛んだ、けがししゃいけないわ、それで何の観察?」

 もう一度辺りを伺ってさっきの高校生たちを目で追いかけてる。

(年上好みなのかな)


「国宝さんなら隠さなくてもいいか、この辺りちょっと霊が集まっていて様子を見てたの」

「わお、本職の仕事じゃない」

「まだ見習い、ってちょっと違うんだ此処に居るのは動物霊、除霊しておかないとこの辺りで具合の悪い人が出ちゃうから」

「見えるの? 感じるの?」

 またきょろきょろ周囲に目を動かしている。


「両方、もう数が減ったからほとんど感じないけどさっきまで鳥肌でブツブツしてた」

「えー遅かったの私も感じられるか試したかったのに」

「本気なら明日の朝暗いうちに来て」

「暗いうちって四時頃じゃない家から出してもらえない七時ごろじゃダメ?」

「その頃になったら人が出て来るでしょ怪しい事出来ないじゃない」

「怪しいって認めちゃうんだ」

「何もない所で舞ってたら変でしょ」

 別に舞いはしないけど国宝さんなら舞って言う方が理解してくれそうだ。


「なるほど、じゃあ六時」

「ほんとに来るの? 人が居ない時にさっさと終わらせないと」

「来る絶対来る、私もそんな力が有るか確かめないと見かけだけの巫女でも良いけど出来たら霊退治くらいやりたいわ」

「退治はしないけど」

「えっしないの、じゃあどうするの」

「自分で成仏してもらう様に観光案内するのとてもきれいでいい所ですよなんて」

「なんだまさか五來さんが冗談言いうとは思わなかった、九字とかってやつ?」

「それは陰陽師、私は尼だから成敗なんてしないご案内するの」

「ご案内......やっぱり観光案内なんだ、すごいって事なのかな良く分かんない」

「すごいとかそんなんじゃなくて坊主は霊や魂を黄泉へ導くのがお仕事」

「あっそうだお坊さんてそうだもんね、神社って神様をお祀りするけど霊とは関わらないのよね」

「出来たら関わりたくないよ目をつけられたら逃げられないもん」

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