第33話 再び浄化の滝へ

「ああ、寺を。。。いいのか、いや私はまだまだ元気だから大学に行ってから決めればいいよ、勉強しているうちにやりたいことが出来るかもしれないし」

「うんでも多分そうする、大学は高校入ってからかな、とりあえず継ぎますって宣言しておきたかったの」

「そうかいゆっくり考えれば良いよ」


 フェンスの中を進む。

「どうしてこんなに広く場所取ってるんだろ」

「トラックで代わりの電柱を運んで来るんじゃないか、そうだこれだ」


 上着のポケットから数珠を出してこっちに差し出す。

「お父さんが持っていて、両手使うかもしれないから、こうやってくっ付いてたら平気だから」

 そう言って腕を組む。


「こりゃ照れくさいなあ」

「誰もいないって」


 私にすれば手をつなぐ方が恥ずかしい、この前は緊急事態だからつないでたけど。


「だんだん濃くなってくる、この辺の人大丈夫かな早めに浄化しないと」

「私に特別な力が有れば読経で消せるんだろうけど、ちょっと試してみるか」

「あっ今は止めて確認してからね、だけどこの辺一帯に影響が出たら大変」


 更地になった横の電柱近くまで来ると霊気が更に強くなっている。

「霊の影響確定だけど家が無くなって外に出てきたって事かな全く迷惑な話、ってこれ人じゃない見たい」

「人の霊じゃないって事かい」

「うん犬が唸っているみたいな声が沢山、あー頭がおかしくなりそう耳鳴りじゃなくて犬鳴り」

「まかはんにゃはらみったしんぎょうかんじざいぼさつ ぎょうじんはんにゃはらみったじ、、、」


 お父さんが小さめの声で読経を始めた、余計に動物が騒ぎ出す。

「あーストップ大騒ぎしてる」

「ダメかあ」

「多分しっかり準備しないと散らばるだけじゃないかな、効果が無いわけじゃないから」

 一応フォローのつもり。


「散らばるなら一人じゃ無理だな、坊主を集めるといってもなあ皆それぞれ仕事が有るから、ただで働かせるのも気が引けるしなあ」

「お母さんは?」

「もちろんできるよ」

「じゃあ私も丸一日練習するから」

「一日じゃ覚えられんぞ」

「お経持ってくる」

「なら何人か声を掛けてみるか」

「うんそうしよ、調査はもういい触らなくても確定だよ」

「駅の方に戻るのか」

「ううん家の方にも出られる」


 帰り道。

「お父さん明日学校休んでもいい?」

「家でお経を読むのか」

「その前に浄化ができる水を分けてもらえないか山の神様の所へ行きたいの」

「それは何処なんだい」

「狐横丁通って行く所だから私だけしか行けないの」

「そうか、浄化のお手伝いをしたって言ってた所か」

「そう向こうでは神様に守ってもらってるから心配しなくていいからね」

「たいしたもんだなあ」



 それで翌日浄化の滝に行くことに成った、夜明けの頃に出発予定。

 そうしないと人が居たらお水を撒くわけにいかない、人が出歩く前にやっておかなきゃ。



 朝は中々起きられなかった、やっと目が開いたのが五時前、急いで着替えて朝食抜きで作ってもらったおにぎりをリュックに放り込んで出発。

 急ぎたいところだけど山を歩く事を考えれば体力温存しておかなければ、結構きつい坂を歩かなければならないから。


 朝が早いので商店街北側の通行止めを横から抜けて狐横丁に入る、神様がいるこの横丁のすぐ横で悪霊がのさばるなんて皮肉なものだ、神様は外の世界を見てないのだろうか。


 葛の葉に寄りたいけれど少しでも早く戻ってきたいので仕方なく通過、信太さんが起きていたら後で出てくるかな、私が来た事くらい分かっている筈。


 せっせと山を登る筈だったのにほとんど平地を歩いている感じだ、そういえば初めに山へ来た時はそんなきつい坂じゃなかった、私を鍛えるために竜神様がわざと坂をきつくしたのかも。


 だから逞しくなっていた私はあっけなく滝に到着、そして川を渡らなければ行けなかった滝壺も飛び石を伝って川に入らずにたどり着けた、とりあえず、

「神様ありがとうございます、狐横丁の外では悪い霊が広まっています、早めに除霊をしたいのでどうか浄化のお水を分けてください」


 そうお願いすると、

「ザッバーーー」

 と頭の上から水が降りかかってきた、即ずぶぬれに。

(使って良いって事だよね。。。)


 用意してきたビニール袋をポケットから何とか引き抜き袋の口を開いた時には水が止まった。

(間に合わなかった?川の水をすくえばいいけど)


 すると広げた袋にズサッっと何かが落ちてきた。


(竹?)

 直径10センチほどの竹の筒に直径2センチほどの竹が突き出している。

 袋から取り出して手に取ると多分水鉄砲らしいものだった。


 滝壺に近付いて下に向けて先を水に入れ細い竹を引っ張る。

 抜けそうになる前に引くのをやめ正面に向けて細い竹を押すと勢いよく水が飛び出した。


 (これは使える神様ありがとう)

 心の中で唱えると、不思議なことに押し込んだ竹が勝手に戻ってきた、押し込む前の状態に、つまり如雨露じょうろの時と同じように自動充填してくれるのでは。


 試しにそのまま押してみるとやはり水が飛び出した。

「ありがとうございます、今から街の浄化に行ってきます」


 頭を深く下げてから踵を返し山を駆け下りた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る