第19話 背負う

 改めて信太さんを眺める。

(太ってない?しかもかなり、、、)


 今まで立ち姿しか見てなかったけどこんなに胴回りが有ったとは思えない。

(こんな時に限って太っちゃうなんてあーどうすればいいの)



「ガサガサガサガサ」

 草を踏んで歩く音が近付いて来る。


 振り返るとタヌキの集団が直立歩行でやって来る。

(ま、まさか)


 その中からさっきの子ダヌキが四本足で走って来た。

(呼びに行ってくれたんだ)


 ネコの様に私の足にスリッと体を寄せた。

 頭をなでて、

「この人連れて帰りたいの力を貸して」


 子ダヌキは「キャン」と鳴いて他のタヌキを呼ぶ。


 私が信太さんの背中を持ち上げようとしたら四匹のタヌキさんが背中を押してくれて信太さんの上半身が起きた。

 タヌキさん達に、

「そのまま押さえていてくれる」


 そう言って信太さんの前に回り信太さんの腕を肩に乗せ立ち上がろうとしたら難なくスッと立てた、タヌキさんが押してくれたんだろう。


 子ダヌキが私の前に回り「付いて来い」と言ってるみたい。

(歩けるだろうか)

 なんだか背中の信太さんがやけに軽い、どうやって支えてくれてるのか分からないけどとにかくタヌキさんが支えてくれてるのに違いない。


 私は妙に軽い信太さんを背負って歩き始めた。


 でもすぐに下り道きつくはないが慎重に歩く。

 一つ目の段は無事通過したけどもう一つ段が有る、次の方が坂がきつい。


 背負いなおしてゆっくりと一歩ずつ歩を進める、こんな所でタヌキさんが力を抜けば私は私はぺっちゃんこになってしまいそう。


 なんとか坂を下って桜の木迄たどり着いたここからは平たんな道だけどまだまだ遠い、何だか信太さんが少し重くなった気がする、疲れたせいかな。


 やはり人気ひとけも妖し気もない商店街をトボトボ歩く気のせいではなく確かに信太さんが少しづつ重くなっていく、タヌキさんは私の後ろなので様子を伺う余裕もなくなってきた。


 橋を渡る子ダヌキさんの影が薄くなっている、この子たちも妖しさんなんだ自分の場所から離れて力が弱ってしまうのかもしれない、もう少しなのに私一人では運べない。


 八百屋を過ぎたあと少し、だけどタヌキさんの姿はもう陽炎の様に見えたり見えなかったり一歩進むごとに信太さんが重くなっていく。


 喫茶シノダのドアの前信太さんから片手を離せば落ちてしまいそう。

「ぎーーーー」とドアが勝手に開いてタヌキさんの姿が完全に消えた、ずしっと背中が重くなる、二三歩進んだがもう耐えられない床に崩れる様に倒れ込んだ、体半分信太さんの下敷きになって。


 開いたままのドアに向かって、

「タヌキさんありがとう」ほとんど声にならないがとにかくお礼を言っておく明日も通るからお礼をしなきゃ。


 信太さんの体の下から這いずりだしまず手を洗いコップに水をくむ。

(でも飲めないよね)


 コップにストローを差して上を指で押さえ信太さんの口の上で水を垂らす、そうだお絞りが有った。


 温かいお絞りでサッと顔を拭いて温かいまま首の上に置いて、もう一度ストローで水を垂らす、今度は口が少し開く様に顎に手を当て。


 そして私も喉がカラカラだったのでコップの水を一息で飲み干した。

 口の中に何かが残る、米粒よりもっともっと小さいもの、舌に乗せると甘酸っぱい味がした。

(さっきの木の実の欠片、もしかして)


 舌の先で指に移した、1ミリほどの欠片。

(でもこれだけでも元気が出るいかも知れない)


(私の口の中のものでごめんなさい、でもきっと元気になれるから)

 指先の木の実の欠片を信太さんの舌にこすりつけた。

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