第18話 果実
(とってもきれい)
少し眺めていると、
「その実をもいでそのまま食べて」
「えっこんなきれいな実を食べちゃうのもったいない」
「食べない方がもったいないわ、すぐにカラスが来て食べてしまうわよ」
「わっそれはもったいない、食べる」
手を伸ばし掴んだだけでポロっと手の中に落ちた。
顔の前に持ってくるとヘタも無くグミの様な実だけ。
「皮ごと食べるのよ早く」
「う、うん」
口の中にすっぽり入る。
噛むと<カシュ>と柔らかい歯ごたえ、甘酸っぱい、マンゴーとミカンが混じった様な味しかも濃厚。
「うわっ甘ーいめちゃ美味しい、トリハダ、髪の毛が爆発してるかも」
ギュンとかビューンとか音が聞こえてきそうな感じでエネルギーが体中を駆け巡る。
「あー元気でるナントカ拳で岩を砕けそう」
「今のうちに頭から滝に打たれて頭は特に綺麗に流してしまわないと記憶を失うだけでは済まないのよ」
「わかったこれなら何時間でも平気かも」
もう一度滝壺の滝の真下に入り頭から水をかぶる。
バシバシ水が当たるたびに悪いものが流れて出していく気分。
(もしかして霊だけじゃなくて肌の色まで落ちてない?)
腕が随分白くなった気がする、私は地黒。
(ともかく顔の右側は地黒のままで残しておかなければ)
何故残さなければならないのか自分でも分かっていない、ただ地黒を失くしてしまうと<自分>を見失いそうな気がしたのかもしれない。
「顔を押さえていても大丈夫?」
「もう大丈夫だけど、どうして?」
「全部白くなったら自分じゃない気がする、知らない人になりたくないお母さんに誰ですかなんて言われたくない」
「そうなの大抵の人の子は綺麗になりたいって願っているのに、明日死んでもいいから綺麗になりたいって叫んでた子もいたのに、でもそれが善繡の良い所ね」
それからしばらく滝に打たれていた。
「キメラ今日はもういいわよ」
「う、うんスッキリした、そうだ信太さん大丈夫かな」
「その前にそんな水の滴る美女で帰るつもり」
ヒューーーーと風が駆け抜けていった、体の中まで通り抜けた感じ。
真っ黒に汚れていた深緑のメイド服は綺麗に汚れが落ちて今の風ですっかり乾いている。
(さすが神様)
「奥津姫ありがとう」
「いいえ怖い目に合わせてごめんね、それから急がなくても大して時間は進んでなくてよ」
「えっ二時間か三時間過ぎてると思うけど」
「ここは特別な場所よ、人の時間と違う分かってなかったの?」
「あーそんな気もする気にしない事にするよ」
「それから一週間通わなければならない事を忘れてはいけない」
そう言うと奥津姫の気配が消えた。
道を戻るとさっきの場所で信太さんは倒れたままだった。
「信太さん」
体をゆすってみるが反応は無い。
(どうすれば良いの、、、奥津姫)
奥津姫を呼んでみたけど返事は無かった神様にお願いばかりもしていられない、でもどうしたら良いのか分からない。
信田さんの体を起こそうと頭の方から肩を持ち上げるけどビクとも動かない。
顔を上げるとさっきのタヌキがすぐ近くに来ていた。
「タヌキさんこの人を連れて帰りたいの起こすの手伝ってくれないかな」
ムリと分かっていたが神様が力を貸してくれたんだタヌキさんだって。
でもやっぱり思うようにはいかない、背中を向けて走って行った。
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