第16話 底なし沼

 私は無意識に手を突き出して前に倒れた。

 「バシャ」真っ暗闇だが水が大きく跳ねたのが音で分かった。


 一瞬だけ顔を上げ大きく息を吸う、顔を水につけ静止。


 右手で水面をパシッと叩きまた静止、右の耳辺りの水が揺れる頭右の方向が岸が近い。

 平泳ぎでゆっくり進む。


 なんて事なの地獄の体験が役に立つなんて。

 私は寝たきりの時(8年間眠ったまま)夢だけど毎日の様に鬼に追われ金棒で殴られ有る時は地獄に落とされた。


 その時底なし沼地獄なんてのも有った、もがけばもがくほど沈んでいく、当然沈めば死んでしまう、それが死んでも終わらない何度も何度も沈められそのたびに死の恐怖を味わされる。

 その繰り返しで沈まない方法を見付けたんだ、沈む前に泳ぐ、足が抜けなくなる前に体を倒し水に浮く。


 ただその方法もその沼では通用しなかった、何せ地獄の沼だ亡者が居るそいつらが手や足を捕まえすぐに水中に引きずられた。



 でもここは地獄じゃない安心できないけど、と思ったら岸に手が付いた。(やった)


 でも垂直に近い斜面はヌルヌルして手も足も掛からない。

 右に右に移動して斜面を手で探る、

「あっ」

 指にゴツゴツした硬いものが触れた多分石だ腕を伸ばして上を探っても同じ感触、高さは有りそうだが(上がれそう)。


 左手で顔の高さの石を掴み右手は上に伸ばし指が掛かるところを探す。

(あった)くぼみに指を掛ける、体を引き寄せ足が定まるところで右腕を引いた。


「パキッ」右手で掴んでいたところが欠けた、簡単に。

(石じゃないの?)

 もう一度右手の指が掛かるところを探す。

 しっかり掴まるところがあった、少しギザギザして指が痛いが掴みやすいので少し引っ張り強度を確かめる。


「スカッ」簡単に抜けてしまった。

(石じゃない)言わばビスケットみたいな感触、(まさかお菓子の家? ないない)、こんな所人が来ない。


 手にしたギザギザの部分を触ってみる、掴んだことが有る様な、、、止めようそんな事考えてる場合じゃない。


 もう一度右腕を上に伸ばし指の掛かるところを探す今度は石の丸い部分、ソフトボールより大きく掴みにくいがパリッと割れたりしないだろう。


 ゆっくりと体を引き上げる、ずり落ちない様に一旦この石か岩に体を被せ、足がしっかり掛かる所で次に手を探る。


 こんな感じで少しづつ少しづつ這い上がる。


 左手が石の一番上を掴んだ様だ、しかしグラグラしていて力を入れられない、少しづつ右によりもう一度今度は右手で上を探った、とりあえず斜面はここで一度途切れている様だ。


 慎重にからだを引き上げ上半身が一番上の石の上に乗った。


 その時<ビカッー>辺りが一瞬真っ白に光る、すぐに「ドドドドガーーーンンン」轟音と共に地面が揺れる。


 揺れで体が滑り落ちない様にしっかり石を掴んでいなければならないと思ったが、手に力が入らない、足も力が抜けそうだ。


 だけど石らしい物に体が被さっていたので滑り落ちることは無かった。

 むくろの山から。


 雷の光が弱まる時に見てしまった、私の体の下に有るのは無数の骸、頭蓋骨の山だった。


 私は動けなかった、金縛りなのか、力が入らないだけなのか、体がピクリとも動かない。


 思考さえ止まった(どうしたら良いの)。


 突然突風が吹いた、飛ばされない様になんて無理、一瞬にして骸ごと風に巻き上げられどう飛んでいるのか上も下も分からない。


 まるで竜巻の様な強い風に翻弄されキリキリと渦の中に巻かれていった。

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