第15話 帰ってこない信太さん

 喫茶「葛の葉」へ行くと今日も信太さんが居なかった当然探しに行く、店は、、、信太さんだって留守にしてるんだから良いのだろう。


 今来た方は何もなかったから(方向が分からない)反対側の狐横丁のお店が並ぶ方へ向かう。


 この前に狐横丁の商店街を案内すると言われていたけど、結局まだ実現できてなかった、少しでも聞いて置けばよかった。


 喫茶「葛の葉」の隣だけど五軒分程離れて八百屋が有った、少しの野菜が並べてあるが誰も居ない、隣は駄菓子屋さん、その斜め向かいは旅館「そつね」、あと乾物屋さんお茶の店お蕎麦屋さんなどが並んでいる。


 一番奥に団子屋さんが有ってお店はそこまで、その奥は桜の木が有って何もないけど公園なのかな。


 さらにその奥は一段高くなっていて細い道が続いている、私の背の高さではギリギリ見えない。


 桜の木の所まで来たら背中がゾクリとした、段に近づくほど不安な気持ちになる。


 それが信太さんに何か有ったからなのか、私に身の危険が迫っているからなのか、それとも臆病風に吹かれているからなのが分からない。


 段を上がると山の入り口的な感じ、恐る恐る進む前方は背の高さほどの高台の様だ。


 高台に続く道の入り口に立った時足が震えた、体が言う事を聞かない程拒否反応を起こしている。


 でもこの先で信太さんが倒れていてそれを危険と感じている気もする、行ってみるしかない、誰も居なければすぐに引き返そう。


 勇気を振り絞って、ではない。

 これは無謀だと思う、有りもしない危険かもしれないが何かが私を引き留めている、でも行かなければ信太さんを救ってくれる人はここには私以外いないから、無茶を承知でいかなければいけないんだ。


(行きます)覚悟を決めて駆け上がる、生まれ変わって初めて駆ける、ほんの短い距離だけど。


「えっ」

 思わぬものが目に入り思わず声が出た。


 本物は見たことは無いけれど絵本に書かれていたタヌキと特徴がそっくり、タヌキの大きさは知らないが多分大きい犬ぐらいだと思うが目の前に居るのは成ネコ程度の大きさ、多分まだ子供のタヌキ顔が幼い。


 そのタヌキさん(多分)が私をキョトンかジットか見ている。


 そりゃタヌキさんにしてみれば見た事も無い動物だろう一応右半分狸顔だけど人の顔に違いない、信太さんの姿が見えなければすぐに引き返そうと考えていた事はタヌキを見た途端何処かに追いやられた。


 ゆっくりとタヌキに近付くとあと数メートルの所で向こうへ走り追いつくとまた先を走る。

 そのかわいらしさに注意を怠った、草の上を歩いていたら、

「ズボッ」


 足が土の中吸い込まれた、体も土の中に滑っていく、落ちる落ちる遮るものは何もない、と言うか真っ暗で何も見えない、手に触れるものも無い。



 落ちる落ちる!恐怖が蘇る、幼い頃生みの親に川の土手から蹴り落された、石がゴロゴロしている河原、大きな岩が目前に迫った記憶がよみがえる。

 誰も知らないけど私はそこで一度命を落としている、救急車が来た時には何故か息を吹き返していた、これは大怪我をして寝たきりになっていた時誰かが教えてくれた、決して良い人じゃ無い人を恨めなんて言ってたから。



「助けてー」思わず声を出していた。


 体が宙に浮いているのにエレベータの下降が止まる感じで体に重力を感じた、真っ暗闇だけれど速度が徐々に落ちていく気がする。


(あっ奥津おきつ姫、そうだった奥津姫が言ってくれた悪いモノから守ってくれるって)


 「ジャポン」

 水が有るところに落ちた様だ、(足が沈む!)


 底なし沼、深さは膝のあたりだけど足が沈むと抜け出せなくなる、深い所では頭まですっぽり泥に埋まって永遠に見つけてもらえない、ここだと体が浮いてたって見付けてもらえない、誰も来ない。


 こんな所に人がいるはずはない。

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