第14話 奥津比売《おきつひめ》

 目を開けようとしても瞼が開かない、声を出そうとしても喉が引きつる。

「人って不便ねえ、食べたり寝たりしないと動けなくなるなんて」


 なんだか聞き覚えのある声。

「あっ奥津比売おきつひめ、あれここ何処だろ、また道に迷ったのかな」


善繡ぜんしゅうの夢の中いくら迷っても目が覚めたら布団の中よ、でも探したわせっかくタグを付けたのに名前が違っていたからリンクが切れていたのよ」


「リンク?紐か何かでで繋がってるってこと?」


「おおむね正解見えない糸見たいな感じかな、でもタグを付けた時と名前が違ったから善繡だと繋がってなくて探せなくなるのよ」


「ああそう言えば信太しのださんが言ってたこの店では別の名前にしなさいって、でないと怖いものに取り憑かれるって」


「出来損ないにしてはやってくれるわね、でも結界ぐらい張っておかないと今のキメラ、じゃなくって善繡はね生まれたての赤ん坊が一人で歩き回ってる様なものなの、妖に見つかったら魂だけじゃなくて、身体ごと丸々飲み込まれて消えてしまうわ、おまけに豚の丸焼きの様な美味しそうな匂いを振りまいているからよく生き延びていたわね」


「えっあたしそんな匂いがしてるの、学校では臭い汚いって除け者にされてるのに」


「何それどこの学校海の底に沈めてあげる」


「うっ神様の発言にしては、、、そう言うものか、でも今の事じゃなくて少し前まで行ってた小学校だから、今はもう大丈夫だから」


「まったく人間て優しい様で残酷だからタチが悪い神なんて悪い奴はとことん残忍でいい神様は顔を見ただけで癒されるのよ、見たままだから分かりやすいの」


「でも奥津比古おきつひこ様って見た目と違って怖かったけど」

「私たちは一つの入れ物を二人で使っているから形が決まらないの、その時々によって見目みめが変わるわ」


「仲が良いんだ、でもその姿の奥津比売おきつひめって可愛い」

 やっぱり幼稚園児くらいの子供姿。


「あなたって面白い子ね、巫女でもないのに私と話せるし、と言って巫女の様にかた苦しくないし」


「んーだってあたし神様ってよく分からない、仏様には命を助けてもらったけどそれでもあの時死んでしまわなかったのは神様のお陰?なのかな」


 興津比売おきつひめは少しの間黙っていた。


「そうなんだ、親に殺されかけてたのひどい親も居たもんだ、でももう恨んでいないからいい子なんだね」

 さすが神様説明しなくても丸わかり。


「いい子はともかく、今のお母さんとお父さんのおかげかな今はとっても幸せ、ちょっと前まではおバカなあたしだったけど、それでも幸せなのは実感してた、もう昔の事なんてどうでもいい」


「昔の記憶消してあげようか」

「えっ消すことなんて出来るの」

「出来る、ただね他の記憶も消える場合がある、たまにね」


「じゃあいいよ大したことじゃ無いし、大事な記憶が消えたら悲しい」


「消えてしまうから悲しいとも思わないけどまあいいわ、じゃあ変なモノが付かないおまじないをしておくわね」


 そう言ってあたしの背中を上から下へすっと撫で下ろす。

 一瞬ぞわっとしたがすぐになんとも無くなった。



 翌朝いい夢を見た様な気分で目が覚めた。

 とても清々しい。

「今日も頑張ろう!」



 学校へ行くと妙に声が良く出た。

「おはよー」


 一瞬教室の中が静まりかけ直ぐにザワザワが大きくなった。


 席に着くと近くの子達が寄ってきて、

「どうしたの、元気一杯」

つよし(生活指導の先生のあだ名)よりでかい声だったよ」

「えっそんなに大きな声だった、朝起きた時から気分が良いの」

「益々成長してる、なんかオーラ出てる」

「ほんと遠赤ヒーター見たい、温ったかい」

「マチ、それ暑苦しいおデブじゃん」

「違う!気持ちいいの、独占したい気分」


 男子も入って来た。

「あー俺それ言いたかった」

「キャータケそれ告ってる!」

「女子なら良いのかよ」

「男子が女子独占て彼女って事でしょ」

「はいそこ席について」


 いつの間にか先生が来ていた。


「五來さん元気そうね前半でバテない様にしてね」

(さすが担任よく分かってらっしゃる)


「はい、エネルギーの補給が必要です」

「おっとそれはそれは予想外だったわ、水筒にスポーツ飲料はOKなんだけど気分が悪くなる様だったら保健の先生に相談してみて」


「先生腹が減って動けないってアリですか」

 男の子が質問している。


「有りよ倒れられたら困るから、さすがに餌は与えてくれないけど点滴かカロリーのある飲料を用意してあるから、ただし味はお勧め出来ないけどね」

「餌。。。俺ゴリラ?」

 おどけて言うので笑いが広がった、クラスの雰囲気も変わった気がする。


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