第9話 久々の登校だ。
月曜日、お母さんはもう少し(顔がきれいになるまで)休んだらと言ってくれたが、「ううん大丈夫、これもあたしだから逃げたりしない、勉強も少しでも追いつかなくちゃ」
そう言って学校に来た、今まで来るだけで疲れ切っていたがその苦労は何だったのと言いたくなるほど、むしろ気持ち良い!って感じだった。
教室に入ると自然と「おはよう」って言っていた、自分でも(おっ)っと驚く。
いつもより随分早く着いたのでまだ女子が二人しか来ていなかったけどぽかんと私を見ている。
私の席は窓側の一番後ろ、前の入り口から入ったので彼女達から見えるのは、あたしの左側の顔、今までと全然別の白い顔の方、席に座るので体を反転させると。
「わっ、、、えーと
「うん、あたし蛇女かなあ脱皮したの、でも顔は半分だけ」
二人が少し離れた所までやってきて「うわー見事に半分に分かれてる、そんな猫見たことあるけど。。。」
「でも左側全然別人だよ、誰か分からなかった、しかし何というか」
「こういうのキメラって言うんだって、珍獣になっちゃった」
「あ、あのさ声も違ってる気がするけど」
「うん、自分でも声が出易くなったって実感してる、やっと半人前に話せるようになった」
「う、うん今までと全然違うね、じゃ、じゃあまた」
急いで戻って行った、あたしと話しているとあたしの仲間と思われるのが嫌なんだ。
まだHR(ホームルーム)まで三十分も有る、ボーと座ってるのも暇だから、、、(そうだ鉄棒やってみよう)
今までぶら下がる事すらできなかった(体育はずっと見学だったし)けどぶら下がる事ぐらいは出来る筈。
靴を履き替え校庭に出る。
校庭の方からも登校してくる生徒がいてあたしの顔を見て驚いている、気にせず「おはよう」
まず胸の高さの鉄棒で地面を蹴って飛び上がる、すんなりと腕と下腹で体を支えられた。(うそ!一回で上がれた!)
と思ったがバランスが取れず前に傾く、そのままくるっと回って足が勝手に着地(うわっ前転出来ちゃった!)
次に手の届かない鉄棒の下からジャンプ。
なんだ簡単にぶら下がれた、でも後は何も出来ないし、ぶら下がれただけでも満足。
教室に戻る、これでもいつもよりまだ早い時間。
左の顔が誰かわからないからおもしろがって前扉から入る「おはよう」と言ったらほぼ全員が私に注目する、見慣れない顔の方が良く見えてるから。
教壇の所に来たので一応説明しておこうかな、正面を向くを「わっ」と何人かが声を上げる。(なぜか気持ち良い)
「
そう言って窓際の席に座ると近くの子たちがワラワラと近付いてきた。
「ねえどうしたのその顔?」
「脱皮かな」これはあたし。
「脱皮って蛇か何だっけ」
「トカゲ、セミ、ゴキ、ワニもしたかな、ちなみにその脱皮の仕方は
「色的にはヤモリだね」
「蛇女じゃないの」(あたし)
「蛇は全身まるっと脱皮する、トカゲやヤモリは部分的にポロポロ脱皮するけど脱皮しても見かけは変わらない、脱皮して姿を変えるのはセミか、蝶は原型をとどめない」
「セミか、ひと夏で終わりとか?」
「大丈夫、人は日焼けだけで何度も脱皮する、一皮むけるって成長するとか垢抜けるっていい意味だぜ」
「そっかありかとう」
(今までよそよそしかったけど、いい子だったのね)
そこでチャイムが鳴って先生が入ってきた、あたしに気付くなり「五來さんどうしたの」と言いながら私の所までやってきた。
「えーとしばらく成長してなかったので脱皮状態です」
「あら話し方まで変わったわね、まあ成長ならいいけど、お医者さんには行かなかったの」
「熱が無かったから様子を見てくださいだけでした」
「なるほど、じゃあ様子を見ましょ」
「あの先生みんなに聞いてもらいたいことが有るんですけど」
「そうね、学級委員今日の議題は?」
「えーと五來さんが今日も来なかったらどうしたら良いかって話し合う予定でしたけど、必要なくなりましたからどうぞ」
「じゃあそうする?ちゃんと話せるかな」
(今までの
みんなに聞いてもらいたいので席を立って教壇まで行く。
「えっと私の事なんて興味ないと思いますけど、少しだけ聞いてください。
私は小さい頃から小学五年になる歳まで病院で寝たきりでした、植物人間と言われる様に目を覚ますことは有りませんでした。
でも意識は有って人の話し声が聞こえるときもあったんです、一生このままだとか、長く生きられないとか耳に入るのはそんな事な事ばかりでした。
でもある日から全く知らない人が毎日来る様になって、「早く目を覚して」とか「何も心配しないで」とか耳元で話してくれる様になりました、それが今の両親です。
この人達が私の目を開かせてくれたんです。
でも目を開いたからと言って、立って歩ける様になったからと言って完全に回復したわけでは有りませんでした、それが先週までの私です。
勉強なんて全くできないおバカとやっと分かったんです、だから先週は小学校の復習から始めました、中学校のお勉強も少しは出来ました、これからは皆さんの足をなるべく引っ張らない様にして行きたいと思っています。
今までいっぱい迷惑を掛けたと思います、ごめんさない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます