第4話 眠り姫は起きていられない。

(あれ?わたしなにしてるの、机に突っ伏して寝てしまったのかな)


 両腕を枕にして顔を下に向けていたのを左に回しゆっくりと目を開ける。

(えっ!ここどこ?)


 カウンターに座って眠っていたようだ。


(あっ喫茶店に来てたんだ、どうして眠っちゃったんだろう)


 頭を上げると部屋の中は薄暗かった。(あれ女の人がいない、奥に行ってるのかな)


 頭がしっかりするのを待って(わっもう夕方早く帰らないとお母さんが心配する)立ち上がる。


「す、いません」

 奥に声をかけてみるが私は大きな声が出せない、聞こえないのだろうか。


 少しの間耳を澄ましてみたが物音一つ聞こえない。


「す、い、ま、せん」思い切り大きな声を出してみるが普通にしゃべる人の声の半分くらいの声しか出せないわたし。


(買い物へ行って時間が掛かっているのかな、でも早く帰らないと)

 奥からさっき座っていた場所に戻って、椅子の横に置いたカバンを手に取る。


 自分が飲んでいたカップに目が行った。

(えっ?)


 口を付けただけのカップのコーヒーから湯気が立っていた。

 時計を見ると4時30分を回っている。


(うそ、、、)背筋に悪寒が走る。(なにこれ!)

 いくら頭の悪い私でもこんなに時間が経っているのにこの状況がおかしいこと事はわかる。


 カバンを掴みお店を飛び出す。(と言っても他の人が普通に歩く速さにもならない)


 必死で早く歩こうとするが足元がふらつきまともに歩く事が出来ない、いつもの事だけど今は特にひどい。


 走って早く帰りたいけど走るなんて芸当は出来るわけがない、いつだって。


 周りを見る余裕もなかったけど、気が付けば家の前まで帰って来ていた。

(さっきから変な事ばかり、お母さーん)


 家に入ってもいつもなら居てくれる筈のお母さんの姿が見えない、まだ頭がしっかりしてなくてソファーに倒れこんだ、そしてそのまま眠り込んでしまった、のかな。



 あったかくて気持ちがよかった、布団の中横に誰かいる、でも目を開けなくてもお母さんだとすぐに分かった何故かは分からないけど。


「おかあさん」ほとんど声になってない。


 横に転がり少しだけ背中にくっ付く、次に気が付くと朝だったいや十一時だった。


 布団からもそもそ起き出し居間に行ってお母さんを発見。


「お母さん、がっこう。。。」

「具合悪そうだから休みますって電話しておいたよ、全然起きないんだから昨日帰ってきたらソファで寝ているし具合悪いの?」

「あ、、、あのまま寝ちゃってたの?」

「起きないからお父さんに運んでもらって、大丈夫なの」


 それには答えられなかった、お腹が空き過ぎて。


「あーお腹すいた」

「まあまあ呆れたちゃんと返事くらい、えーーー善繡ぜんしゅうお腹すいたって初めて聞いた気がするわ」

「そう?かな」


 私は今まで空腹を知らなかった、いや小さいときはずっと腹ペコだった毎日何時でもまともにご飯を食べさせてもらってなかったから。


 すっかり忘れていた<空腹>、何年間も眠り続けて目が覚めてからはお腹がすかない体もまともに動かない、頭さえ働かないまだ眠り続けていてこれは夢なのかもしれないと思っていた。


「じゃあご飯を食べたら昨日何が有ったか聞かせてね」


 お昼を食べた後眠り過ぎたせいか昨日の事がよく思い出せない、いやいつもの事だけど。


 食事のテーブルに座ったまま、

「えっとーきのうは、、、あれ?学校行った?」

「行ってるはずよ学校から何の連絡も無かったわよ」

「んーとね、そうだ朝学校へ行く時に商店街の所が通せんぼになってて、、、」


 ぽつりぽつりと昨日有った事を思い出せるだけそのまま話した、そのまま話さないと訳が分からなくなって自分が何を言っているのか分からなくなってしまうから。


「きょうは沢山話せたわね沢山眠ったからかな」

「ほんとだこんなに話せたの初めて」

「お話がまとまっていて聞き易かったわ」


 お母さんは立ち上がってコンロの方へ行く。


 わたし「コーヒーで頭がスッキリしたのかも」

「コーヒーをご馳走になったのお礼に伺わないといけないね」

「そう?なの」


 やかんで煎じた薬草茶を私の前にある湯飲みに注いで向かいに座る。


「そうですよご馳走になったのなら何かお返ししなくてわね」

「お店のお手伝いしてくださいって言ってた」

 

 お母さんは自分の湯飲みにも薬草茶を注ぐ。


「そうねそれもお話してみないとね、学校ではアルバイトは禁止され

ているみたいだし」

「そうなのお手伝いしてみたい」

(おかしな事が有ったのを忘れてしまっている私)


「そうねとにかくお礼をしてからね」


 そんな事を話しているといつの間にか眠くなって頭がグラグラしていた様だ。


 いつの間にか布団に入れられていた、お母さんの。


 布団から顔を出すと小さな明かりしか点いていない、夜中なんだろう。

(お腹すいたーお昼食べた後寝ちゃったんだ)


 こっそり布団から抜け出してすぐ横の台所へ行って牛乳を飲もうとテーブルに近づくとテ-ブルの上の一皿に(三つに区切ってあるプリキュアのお皿)ご飯一口(いつもならこれで十分)と野菜の煮物と焼き魚がラップを掛けて置いてあった。


(ご飯置いててくれたんだ)それを食べ(足りないけど眠い)冷蔵庫から牛乳を出してコップに一杯飲んで又お母さんの布団に潜り込んだ。



 翌朝顔が引っ張られる感じがして目を開けた、お母さんが私の顔にテープをくっ付けて引っ張っていた。


 驚いて普段は細い目を精一杯ほんの少し大きめに開けてみる。


「おや起こしちゃったかいごめんね、日焼けでもしたのかい皮が剝がれ始めてるのよ」

 お母さんが持っていた手鏡に顔を映す。


(ひどい顔だ、あ元からだけど)

 くすぶった土色の皮膚がジグザグに破けたり線が走ったり所々白っぽい肌色が見える。


「変な顔、ケッケッケ」自分の顔を見て変な声で(いつもだけど)笑う私。


「大丈夫ですよすぐに剝がれてきれいに取れるから、今日もお休みしなさいね」

 時計を見ると十時を過ぎていた。


 今日は幾分頭がすっきりしている。

「お母さんお腹すいた」

(なんだか声がいつもほどガラガラしていない)

「おやおや食欲が出てきたのね、良かったわ」

「食欲って?」


 小学校に入る前から五年生二学期までずっと眠り続けていた私、勉強が出来ないのは当然言葉の意味も分からない事が沢山ある覚えることも難しい。


 それでも留年しないで中学校に行っている。(いいのかなあ)


「お腹がすく事ですよ、今度の土曜日にそのお店に行ってみましょうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る