第3話 悪魔と契約?。
学校が終わり急いで商店街を目指す、気持ちは急いでいるけど歩くのはトボトボ、他の人が追い越していく、わたしは満足に歩く事もできない、ちょっと急いだだけでバランスを崩し倒れてしまう、朝と同じように。
でも学校側からの道順が分からないのでともかく商店街の自分の家側の入り口に向かっていたら、居た。
朝の真っ白い猫ちゃん。(猫とちょっと違う気もする)
商店街の出口の一つ手前の路地の角にちょこんと座っていた。
相手をしてあげようと近付いたが、手を出す前に立ち上がって向こうへ歩き出す。
(ちょっとぐらい相手してくれてもいいのに)
仕方なく遅れながら付いて行く、立ち止まって待っててくれて今度は一度も曲がらずにお店に着いた。
(あれこんなに分かり易い場所だったの?そりゃそうだ、分かりにくかったら誰も来てくれないか)
そしてやっぱり子猫(だんだん猫じゃない気がしてきた、何だか分からないけど)はドアの手前で消えた。
(消えたよね、中に入ったんじゃなくて消えたよね)
ドアを引いて開ける、カランとベルが鳴る。
ドアを開けた時は誰もいなかった筈なのにいつの間にか朝の女の人がこっちに向かって歩いてきて「来てくれたのね、うれしいわ」
私の両肩を挟む。
わたしは緊張でうなづくことしか出来ない。
「座って、コーヒーで良かったかな、と言ってもうちはコーヒー専門店でコーヒーしかないの、甘いのだったらカフェオレかブレンドに砂糖、ミルクたっぷり入れて、ブラックはお勧めしないわ」
お姉さんはカウンターの左端の席を手で示してからカウンターの右端からカウンターの中へ入り私の正面で私の反応を待っている。
明るい優しい声で話してくれるから何とか返事が出来た。
「こ、コーヒー飲んだ事が無い」
「そうなの、それじゃあカフェオレにする?甘いのが良い」
「砂糖もミルクも苦手、、、」
「そうだったわね任せて、ちょっとまってね」
(そうだったって朝そんな事言ったかな?言ったかもしれないな)
店の中は私以外お客さんはいない。(こんなものなのかな、何か言わなきゃ)
「あ、あの一人ですか?」
「ん?あ、お店、そう一人でやってるの、それでねあなたにお願いしようと思うの」
「えっ、わ、わたし?」
「ええ、でもその前に、はい特製カフェオレ、コーヒーも砂糖もミルクも控えめ、飲んでみて」
コーヒーカップを近付け無造作に口を付ける「あつっ」
「熱いもの飲んだ事ないの?」あきれた様子で。
黙ってうなずく、お母さんは少し冷まして出してくれる。
少し冷ましてからすすって一口。
「苦くない」わたしの味覚は何を食べても苦いだけ。
「お茶とどっちが苦かった」
「お茶」
「普通はコーヒーの方が苦いんだけど」
「なんでも苦い」
「んーやっぱりそうか、よし合格アルバイトに採用決定」
「えっアルバイト?」
「歩くのも人と話すのも苦手家事経験無し。分かっているのよごめんなさいね、ある人に頼まれたのビシッと教育してやってくれってね」
「あ、あ、、、」(どうしたらいいの?)判断できない私。
「あの、どんくさいしそれに歩くのが、、、つらい」
「うん、大体の事は聞いている何て言うのかな、リハビリ?徐々に慣れて行って欲しいの色んなことに」
「(頼んだのは)お母さん?(ですか)」
「頼んだ人?違うわよ初めのうちはここに来るだけでいいから、好きな時に来て好きな時に帰ればいいの簡単でしょ」
(簡単じゃない答えもはぐらかされた、なのにどうしてか)
「あの」
「なあに」優しい声で答えてくれる。
「えっと、コーヒーは砂糖と、、、ミルクと、、、」
「一番大事なのはコーヒー豆よ」
お姉さんは棚に並んでいるコーヒー豆の瓶から面白い形のスプーンで豆を救って、一粒私のコーヒーカップのお皿に入れてくれた。
「これがコーヒー豆?」
「そうよ、この棚に並んでいるのが主な豆だけど他にももっと種類があってね、それぞれ味も香りも違うのよ、これを何種類か混ぜたのがブレンドコーヒー、一つの豆だけなのがストレート」
私は豆をつまんで匂いを嗅いでみるがやはり匂いが分からない、私は味覚も臭覚も機能していない何を食べてもただ苦いだけ。
この事はまだ誰にも言ってない、はじめは病院食ってまずいって思ってたでも家に帰ってからも何も変わらなかった。
他人なのにとてもやさしくしてくれる今のお母さんに「まずい」なんて言えなかった。
それでも笑顔で食卓を囲めるのがとても嬉しかったから。
わたしは手に持ったコーヒー豆を齧ってみた、苦いけれどただ苦いだけじゃなかった。
「あっ、噛んじゃったの苦いでしょ」
「うん、でもおいしい」
「おいしい?の」
「わたし何を食べても苦いだけなの、でもこれは苦いけど美味しい」
(わあこんなに長く話せた)
「えっ、、、苦いだけってご飯粒は」
「苦くて吐きそうになるけど無理やり飲み込む」
「砂糖が苦手って、、、」
「すごく苦い」
「えっ、、、お母さん知ってるの」
「言えない、きっと泣いちゃう」
そう言ったらお姉さんは私の両肩をカウンター越しに両手で挟んだ、何も言わない。
ポトリポトリ、カウンターに水滴が落ちる。
お姉さんが涙を流したのかな、「ずっ」って鼻を吸った。
「
「、、、お父さんとお母さんの方が良い人」
「もう、泣かせないで、いい子だよ」
しばらく無言だった、落ち着かない。
「ミルクと砂糖を入れないで飲んでみたい」
「へっブラック本気?飲むのチャレンジャー」
「ちょ、ちょっとだけ」
「いいわよ」
それはとてもいい匂いがした、「い、いい匂い」
「香りは分かるのね」
「忘れてた」
「えっえー、それじゃあ食べてもほんとに苦いだけなの」
お姉さんは頭を抱えてる。
コーヒーカップを手に取り少しだけ舐めるように口に含む、(なにこれ、口の中がガラガラする、のどが痛い、頭がボーっとする)
「契約完了」閉じていく意識の片隅に冷たい声が流れた気がした。
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