第5話 それでもこのあつい手が

 雪は少しずつ



 僕は彼女の手をあたためるために実験をした。既存のものであたたまるといわれるものを改良する。具体的にはホッカイロやもこもこの手袋、マッサージにツボ押し、入浴や神経をちょっといじる方法といろいろ実験を考えた。冷え性の研究だといった。彼女はだんだんと楽しくなってきたようだった。だけどせっかくあったまった手を雪を触って冷やすと言い出すから驚いた。ばかいうな、あったまったらそれで終わりだ。実験しないの?また今度やろう。わかったけど、次は無理だよ。そうしているうちにただでさえ忙しい彼女は、またなかなか来てくれなくなった。半分も実験できなかった。


 別に寂しいわけではない。彼女はそれを生きがいにしている、僕と同じだ。金銭的問題だけではない。だから僕には口出しできない。女のように責めることはできない。


 雪は静かに降り積もっていく。僕と君の間には言葉という壁がある。素直になれたら、きっともっと君を僕のものにできるんだろう。少しずつ少しずつ素直になってここまできたんだ。最近僕は少しずつじゃダメになっている。



「久しぶりー元気だった?」


「元気じゃない」


「めずらしい!病院は行くわけないか」



 無言で熱を測ってくれるのに。というか冷たすぎるだろう、脳天までしびれそうだ。完全に悪気のある顔。この顔も好きだ。



「ごめんごめん、私の手冷たいからあんたはいつだって高熱だよ」



 笑いながら僕から離れてしまうその手をつかむ。

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