第2話 それでもこの覚めた目が

 寒いのは雪のせい



 彼は以前すごいものを発明して、有名になり犯罪者になり救世主になった天才。そう呼ぶのにふさわしい人。だから今はこうして隠れるように暮らしている。家の中はほんと派手。居住スペースも研究室も彼が作ったもので溢れている。あれは何だとか何に使うものだとかどんな奇妙な見た目で不気味だとか、はたまた有能すぎて私の肩身が狭いとか、至るところに透明な膜があるとか、具体的に話すのは企業秘密。個人の趣味だけど。まあこんなところが世界のどこかにあると知れたらまた面倒事が起きてしまう。そうしたらこの男が素でいられる場所が消えてしまう。他の誰にもばらしていない。もちろん大親友にも。


 彼はものづくりに没頭してしまうと他のことを何もしなくなっていく。お世話をするものもいるから何ら困ることはないという。ついつい嫉妬してしまう。今日はあまり入らない研究室の方へと足を踏み入れる。こちらを見もしないけど慣れっこだ。完全に仕事モードの彼は話しかけづらい。私は待つことにした。あの眠たそうな目が覚めていて。細い体から伸びる五本の指が忙しなく動いている。私はここにはいらないと改めて思ってしまう。あいつを邪魔するのは嫌。嫌われるのはもっと嫌。


 感情のあふれる時期が過ぎてしまった

 彼のことをたしかに憎んでいた

 しだいに好きになってしまった

 離れるのが嫌になって

 彼を探した

 だけど最近ちょっとだけつらい


 それもきっと降り続く雪のせいだ

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