ACT7
ロースターの上で踊るロースを二つ一遍に箸でつまむと、大きく開けた口に押し込み、それから大ジョッキのビールを一気に飲み干してから、奴は、
『ねえさん、すまねぇがお代わりをもう一杯、大で!それからカルビをもう2人前追加』と声を上げた。
他人の懐から出てると思って、無暗に呑み喰いができるもんだ。
もっともこっちだって、必要経費になるんだからな。
『ケイトねぇ・・・・まあ、或る意味札付きではあるな。ネットの世界じゃ有名だぜ。あっちの掲示板、こっちの掲示板。どこへいっても彼女の名前が出てこない日はない。本人自身もそれを否定せず、ツイッターやブログで書きたい放題だ。』
俺の貴重な情報源、馬さんは2杯目の大ジョッキを半分干して、口の周りの泡を拭った。
前にも話したっけか。
俺はネットだの、パソコンだのの世界については本当に疎い。
恐らく、そっち方面に関しては、小学生にだって負けるだろうな。
だから、どうしたって依頼がそっち方面に踏み込まなければならないとなると、手助けが必要になってくる。
馬さん・・・・彼の本職は・・・・ない。
ホームレスだ。
本名不詳、年齢は60代半ばくらいだろうが、詳しくは分からない。
聞いたこともない。
しかし、ネットの世界のことにかけては、俺なんかより遥かに詳しい。
だから、こういう時、一番頼りになる人間なのだ。
『一体どっち方面から叩かれてるんだね?右か?それとも左か?』
俺はウィスキーのお湯割りのお代わりを頼んだ。
(ここを会見の場に選んだのは大した理由じゃない。馬さんは焼き肉が喰いたいといった。だがそんな店でウィスキーを出してくれるのはここしか知らなかった。それだけさ)
情報を引き出すためには、多少なりともおべっかを使わにゃならん。
だからその分、こっちは少し倹約する必要があるのだ。
お陰で向こうが3杯目のジョッキを空にした時、俺はようやっと1杯目のお湯割りを舐めている始末だ。
『どっちでもないな。あんまり特定の主義や思想に拘ってるわけでもないらしい。その時々の気分で好き放題って奴さ。だから誰からでも狙われる。』
『つまりは本当に狙っているのは誰だか分からないってことか』
俺は肘をテーブルの上につき、お湯割りを舐めながら、もう消し炭みたいになったカルビの残りを口に運ぶ。
当たり前だが、苦い。
『ところが、必ずしもそうともいえん』そういって馬さんは3杯目を干し、4杯目をオーダーした。
『お前さんから渡された脅迫メールを調べて分かったんだがな・・・・
彼は思わせぶりな口調で言った。
『分かったよ。そこから先が知りたければ追加料金だろ?』
『察しがいいな』
俺は苦笑しながら、グラスを干した。
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