ACT6

 俺は舞台の袖につくと、既にステージの幕は上がっていた。


 彼女はそれほど広くないステージの上で飛び跳ねながら、新曲を披露していた。


 上手いか下手かというのは俺にはまるで分らん。


 ただ、客席にほぼすし詰めになった男たち(女性もいるんだろうが、見渡した限り女の姿は見受けられなかった)は、何やら掛け声のようなものを上げて、声援を送っているところを見ると、これでもなにがしかの魅力があるんだろう。


 三曲続けて歌い終わり、そこで彼女が何かしゃべり始めようとした、丁度その時のことだ 爆竹でも爆ぜたような音が狭いホールに響いた。


 よく見ると、客席の一番後ろに、髪をぼさぼさに伸ばした、如何にも『おたくそのもの』という青年が通路に仁王立ちになり、小型の自動拳銃を天井に向けて発射したのだ。


 怒号とどよめきがホール内に飛び交った。

  

 舞台の前に控えていた私服の警備員4人が立ち上がり、音のした方向に向けて駆け出す。

 

 しかし男の持っている拳銃に気圧されたのか、何も出来ずにいる。


 当然だろう。


 法律上、警備員は拳銃を持つことは許されていない。


 特にこうした集団で警備をするような場合は猶更である。


 せいぜい警戒棒ぐらいがいいところである。


 躊躇している暇などなかった。


 俺は懐から拳銃を抜くと、ケイトを庇うようにして、天井に向けて一発発射した。


 今度は全員の目が俺に集まる。


 俺は拳銃をしまうと、舞台を飛び降り、人垣を押しのけて男に駆け寄ると拳銃を持った腕を掴んで捻じり上げ、股間に蹴りを一撃くわえた。


 声にもならぬ声を上げて、男が通路にへたり込む。


 俺は男の首を膝で押さえて床にねじ伏せながら、警備員に目配せをした。


 彼らだってこうした場合、この後何をすべきかなんてすぐに分かったんだろう。



 30分ほどして、狭いライブハウスは鑑識と腕章をつけた機捜の警官たちでごったがえしていた。


 機捜は大体顔なじみが多い。


 ああ、だからって仲が良いという訳じゃないぜ。


 お巡りってのは、大抵どいつもこいつも探偵を目の敵にするものと相場が決まっている。


 特にその探偵が拳銃を一発でも撃てば猶更だ。


 目つきが悪く、四角い顔をした主任だと名乗る男は、俺から経緯を聞いても、胡散臭そうな口調でねちねちと質問を繰り返した。


 まあ、これもいつものことだ。


 俺は『依頼人との契約』を盾に答えられる範囲は答え、それ以上は適当に言葉を濁しておいた。


 だが、拳銃男は脅迫状の件とは何の関係もないことが分かった。


 彼は数日前、あるラジオ局の関係者出入り口の前でケイトの『出待ち』をしていて、花束を渡そうとしたのだが、急いでいた彼女に素っ気なくされたことを根に持ったという、たったそれだけの事だったのである。


 それが分かった時、俺は半分ほっとし、半分『当分この事件にかかりきりになるな』と思った。


 事件の捜査が一通り終わってからも、彼女は気丈にも(それとも何も考えてないのか?)そのままトークライブを続行したという。

 






 

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