ACT5
『ええと・・・かん?』
俺は苦笑した。
まあ、
『乾』なんて名前、若い奴には中々読めんだろうし、彼女が『宇宙人』であることは大体承知はしていたが・・・・。
『「いぬい・そうじゅうろう」だよ』
俺が付け加えると、
『あら、そうだったの。ごめんなさい』といって、ぺろりと舌を出してみせた。
『私、本物の探偵さんなんかに会うの、初めてなんです』
『俺も、本物のアイドルを間近で見たのは初めてだ』
彼女はその後、
『探偵さんって、拳銃は持ってるの?』とか、
『今まで人を撃ったことって、何回くらいある?』
などと、こちらからするとどうでもいいようなことを一方的に話した。
俺は少し呆れ、その辺りは生返事でかえしておき、早速本題に入った。
『俺は夏井弁護士から君の身辺警護と、それから君が誰から脅迫されているのか突き止めるように依頼を受けた。こっちも仕事だから、頼まれれば受けるつもりだが・・・・こっちは君のことを何にも知っちゃいない。だから少々色んなことを聞かなけりゃならない。その点は承知して貰いたい。いいね?』
俺の言葉に、彼女は意外と素直に頷いた。
それから、後ろにいた付け人のミツ子に何か飲み物を買ってきてくれるように頼むと、脅迫状や脅迫メールについて訊ねると、ケイトは、
『正直言って、私大して気にしてないんです。そりゃ、色んなところで、色んなことを言ったり書いたりしているのは本当ですけど、でも全部、思ったことを思った通りに発言してるだけですから、逆にそれがどうしていけないの?って思っちゃうわ』
こうまであっけらかんとした調子で返されると、こっちも呆れるを通り越して壮快な気分にさえなってくるというものだ。
ま、そんなことはどうでもいい。
俺は俺で、自分の仕事をやるだけだ。
『君の思想は自由だし、俺には関心もない。だが、頼まれた以上、俺は調べなきゃならん。何でもいいんだ。気が付いたことがあったら教えてくれ』
丁度その時、ドアが開いてミツ子とかいう付け人の女の子が飲み物を3本買って戻ってきた。
気の利く女の子だ。
それぞれ、温かい缶コーヒー、お茶、ミルクティーと分けてある。
俺たちがそれを飲んでいると、再びドアが開き、
『ケイトさん、出番です!』と、Tシャツを着たスタッフが顔を覗かせる。
『あ、はーい』
彼女はそう言って、鏡の前でメイクの最終チェックをすると、
『じゃ、探偵さん、私ステージがあるから』
といって、ウィンクだけを残して楽屋を出て行った。
『いつもあんな調子なのかい?』
『・・・・ええ・・・』
ミツ子は小さな声でぼそり、という調子で言った。
何だかひどく内気な風に見える。
付け人と言うからには、自分も何らかのタレントを志願しているんだろうが、幾ら何でもこれじゃ売れるとは到底思えない。
『乾さん、彼女のステージ、一応見てみますか?』
今度は夏井弁護士が俺に言う。
正直、アイドルの歌なんて興味もないが、これも仕事の一環だ。見ておいても悪くはなかろう。
俺は彼と二人で、ホールの方に向かった。
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