ACT4
秋葉原=電気街。
アイドルだの、アニメだのにまるで関心のない俺にとっては、正直そんなイメージしか湧かない。
確かに、その手の店もあることはあるし、そちら目当ての客もいないわけではないんだろうが、大方の人間の歩く方向は、そうした店よりも、むしろ、
『アニメ』
『コミック』
『アイドル』
『メイドカフェ』などに向かっている方が格段に多い。
何?
『それはあんたの偏見だろう』って?
俺を誰だと思ってるんだ。
こう見えても探偵で飯を喰ってるんだ。
俺は自分の見たモノ、確認出来たモノ、そして頭で納得出来たモノしか信用しない。
つまりは、俺の見たままを率直に述べているに過ぎんよ。
ま、そんなことはどうでもいい。
夏井弁護士は狭い路地を慣れたハンドル操作で進み、ある立体駐車場に車を乗り入れた。
一番上のフロアまで車を走らせ、そこに駐車させた。
エレベーターで3階に降りると、そこから隣のビルに通じている通路を歩く。
通路を通り抜けると、それほど広くないホールに、立錐の余地がないくらいの若者がいた。
皆鉢巻をしたり、揃いの法被を着たり、手にチアガールの持つようなポンポンを持ったり、何だか異様な雰囲気が辺りを支配している。
ケイト・カワサキのライブは、午前10時から1時間。その後トークショーが1時間あり、午前はそれで終わり。
午後は1時からまたライブとトークショーという具合だそうだ。
現在は午前9時、即ち開場まであと50分はある計算になる。
(この連中はそれまでここで待っているつもりなんだろうか?)
ファンというのは有難いものだな。
俺は思った。
夏井弁護士に案内され、俺は屈強なガードマンが警備する、
『staff only』と札の出ているドアを開けて貰い、中へと入っていった。
人が一人やっとすれ違えるくらいの廊下を10メートルほど進むと、
『ケイト・カワサキ様』
と書かれたドアがあった。
要するに彼女の楽屋なんだろう。
夏井がドアをノックし、自分の来訪を告げると、ドアが内側から開き、黒縁の眼鏡をかけた、冴えない服装の女が顔を出した。
『ミッちゃん?ケイトは?』
『もう支度は出来てます・・・・』女は小さな声でぼそぼそとそう告げ、俺達を中に入れてくれた。
(後で聞いたのだが、その女性は菅原ミツ子といって、今年21歳、半年ほど前から、ケイトの付け人をしているという)
芸能人の、それもアイドルタレントの楽屋なんかに入ったのは生まれて初めてだが、頭の中で想像していたのと、そんなに外れてはいなかった。
広さはおよそ6畳ほどだろうか。
ソファが一組。洋服掛けには何着かのステージ衣装、大きな鏡。その鏡に向かってメイクに余念がないのが、彼女こと、ケイト・カワサキ嬢、20歳。
『ケイト、おはよう、調子はどうだい?』
夏井が声をかけると、茶色の頭髪ごと、まさに、
『宇宙人』という異名通りの衣装に身を包んだ、ケイト・カワサキ嬢がこちらを向いた。
『絶好調よ!夏井さん!』
大きく口を開けて、精一杯の笑顔を顔中に浮かべて無邪気に笑ったその顔は、とても20歳にはみえなかった。
19歳、いや、事によるとまだハイティーンでも通りそうである。
夏井弁護士が手みじかに俺を紹介する。
俺は頭を下げながら、ライセンスとバッジを提示して見せた。
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