ACT2
翌日、俺は表参道にある1軒のビルの前にいた。
『HASIMA・ENTERTAINMENT PRODUCTION』
ビルにはそうあった。
一角だけではなく、ビルそのものを占めている芸能プロダクション。
芸能関係に疎い俺でも、名前くらいは知っている。
歌手、俳優、タレント・・・・あらゆるジャンルの芸能人を抱える、言わばその道に於ける総合商社のようなもんだ。
ここの社長の一声で、芸能界で名を残せるか残せないかが決まるとまで言われているらしい。
平賀弁護士によれば、ここの顧問弁護士と司法修習生時代の同期で、その伝手で今回の話が来たのだという。
俺は中へ入ると、受付で来訪の旨を告げ、暫くフロアの傍らのソファで待つように告げられた。
5分ほどたっただろうか。
正面のエレベーターが開き、背の低い、小太りで眼鏡をかけた人の好さそうなスーツ姿の男が現れた。
まっすぐに俺の方に向かって歩いてくると、
『私立探偵の乾さんですな?』と、直立したまま訊ねた。
俺も立ち上がり、ライセンスとバッジを見せると、彼は名刺を渡しながら、向かい合わせに腰を下ろす。
彼がこのプロダクションの顧問弁護士、夏井功だった。
『平賀君から何か伺ってますか?』
『いいえ、まだ何も、』
素っ気ない俺の答えに、向こうは少し拍子抜けしたようだったが、
『でしょうな。それじゃ、お話します』
彼は傍らに持っていたアタッシュケースを開く。
中には封筒やら、eメールからプリントアウトしたものやら、妙なものが雑多に入っていた。
『これは?』
俺の問いに答えるより前に、彼は後ろのポスターを指さした。
そこには妙なナリ(今時の言葉でいえば「カワイイ」コスチュームなんだそうだ)をした女の子が、マイクを持って歌っている姿を捉えたポスターが貼ってあった。
『ケイト・カワサキ、知りませんか?』
『生憎、アイドルには興味がないんです』
夏井弁護士の話によれば、ケイトは今この会社が最も力を入れているアイドルなんだそうだ。
彼女は米国人を母に、日本人を父に持つ、いわゆる『ハーフ』であり、拙い日本語を頼りに日本で活躍している。
ふつうこうしたハーフタレントと言うのは、見た目だけしか、
『売り』がないものだが、彼女の場合歌も上手く、演技力もあるため、結構重宝されている。
これまで出したシングルCDは6枚、すべてがミリオンヒットとまではゆかなくても、まあチャートのそこそこ迄はいっている。
しかし、彼女の売りはそれだけではない。
一番はその『歯に衣着せぬ物言い』にあるという。
そのくせどこか間の抜けたような、
『ワタシ宇宙人よ』なんて『おバカ』ぶりが受けて、テレビやラジオに引っ張りだこだ。
『その彼女に何が?』
『何って・・・・分かりませんか?』
夏井氏はもう一度さっきのケースの中身を指さした。
『脅迫状ですよ。彼女、脅迫に遭っているんです』
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