無邪気な宇宙人。

冷門 風之助 

ACT1

 時折、嫌な夢をみることがある。


 冷たい眼差しが俺を取り囲み、罵声を浴びせるのだ。


 そして、その中から石が飛んできて、俺の眉の上をかすり、そこから血が流れ出る。


 そして、同じようにいつもそこで目が覚めるのだ。


 寝汗までかいてやがる。

 

 ベッドの上で上体を起こし、額の汗をぬぐった。

と、左の眉の上に指が触れ、そこに古傷があるのを確認してしまう。

 

 実に不愉快な思い出だ。


 俺は汗を拭い、下半身にかかっていた毛布をはねのけ、そのまま床に降り、腕立て伏せと腹筋をそれぞれ百回やった。


 その後、朝食(といっても、トースト、コーヒー、ゆで卵くらいだが)の支度をしながら、バスタブに湯が一杯になるのを待つ。


 手早く食事を済ませ、ゆっくりと風呂に浸かる。


 これで少しは寝起きに見た、あのやな夢を忘れられた。


 さて、朝の儀式を一通り終えると、俺は服を身に着けてヤサを出た。

 

 階段を下って事務所に降りる。


 今日もまた、鬱陶しい日常の始まりだ。



 事務所に降りると、俺は再びコーヒーを沸かし、ゆっくりと啜り、留守番電話の再生ボタンを押す。


『おい、てめぇ、よくも俺のダチをムショ送りにしてくれたな!そのうち痛い目に遭わしてやるから覚悟しとけ!』


『乾さん、探偵さん!私よ私!変な男に狙われてるの。直ぐに来て頂戴!』


『旦那、ワタシコナイダノ男ヨ。例ノ件、トウナッタネ?』


etc、etc、etc・・・・


 他にも7~8件ほど入っていたが、どうせとるに足らないものだろう。そう思って再生停止のボタンを押した。


 一見、せっぱつまっているように聞こえるものの、自分の名前を名乗っていなかったり、内容が余りにも空疎すぎたり、どう考えたって信じ込むのはばかげているような声ばかりだった。


 俺は再生を停止し、デスクの上に足を投げ出し、淹れたばかりのコーヒーを啜った。


(さて、どうするか・・・・・)


 俺は考えた。


 このまま昼まで待って何も起こらなければ、手早く昼飯を済ませて、後は暢気に過ごそう。


 幸い、まだ暫く酒代には困らんし、確定申告の書類は昨日来たばかり、そんなに

焦ることはない。


 そう思っていると、電話が鳴った。


 あまり期待をせずに受話器をとった。


『乾さん、ああ良かった。いらしたんですね?』


 息を弾ませた若い声が、俺の耳元で弾けた。


 平賀市郎。


 今売り出し中の若手刑事弁護士だ。


 幼い頃に両親を亡くし、働きながら苦学して大学の法科を卒業、そして弁護士になった。


 若いのに金にならない刑事弁護を専門にする。ちょっと変わっているが、なかなか好感の持てる青年だ。


『昨日から何度も電話をかけていたんですよ?携帯にも事務所にも』


『前から言ってるだろ?携帯は持ってるが、嫌いなんで滅多に出ないんだ。で、なんの用だい?』


『実はどうしても引き受けて貰いたい仕事があるんです。他に頼める人がいなくって』 


『安いギャラで引き受けるもの好きな探偵が見つからなかったってだけだろう。まあいいや。話だけは聞こう』






 

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