エピローグ

 幕が下りると、劇場の中には大きな拍手が鳴り響いた。

「明日香さん、中井さんの演技は凄かったですね!」

 と、僕は興奮しながら言った。

 今日は、舞台の初日。僕たちは、中井架純さんに招待されて、明日香さんと明日菜ちゃんと観に来ていた。

「ええ、本当に凄かったわね」

 と、明日香さんは頷いた。

 出演者が殺人容疑で逮捕されたことで、舞台が中止になるんじゃないかという心配もあった。

 しかし、それが逆に話題を呼び、代役をたてて舞台は無事に行われた。

「でも、代役の俳優さんの演技も素晴らしいわね。稽古期間も、かなり短かったでしょうに」

 と、明日香さんが言った。

「殺人事件があると、こんなに大勢の人が来るんだね。変なの」

 と、明日菜ちゃんが、劇場内を見ながら言った。

 実は、あまりにも話題になりすぎて、急遽、少し大きな劇場でやることになったのだ。

「もっと大きな劇場でも、よかったかもしれませんね」

 と、僕は言った。

 劇場は満席で、テレビ局なども取材に来ている。

「不謹慎かもしれないけど、これだけ話題になって、中井さんにはチャンスかもしれないわね」

 と、明日香さんが言った。

「そうですね」


 樋田哲雄が逮捕されて、もう二週間が経過していた。

 その後の警察の調べで、樋田哲雄の持っていた包丁に付着していた血液は、山元陽子さんの血液であることが確認された。

 包丁を捨てなかったのは、警察に発見されるのを恐れてのことらしい。

 そして、樋田哲雄のTシャツからも、同様に山元さんの血液が確認された。洗濯機で洗ったくらいでは、簡単には落ちないものである。

 殺害の動機は、やはり写真だった。

 樋田哲雄が、暴力団のビルに出入りしている写真や、暴力団の人間と食事をしている写真だった。

 その写真を元に、山元さんに脅されていたようだ。この写真が公になれば、もう俳優は続けられなくなると。

 山元さんの行為も、もちろん許されることではないが、だからといって殺していいことにはならない。

 ちなみに、山元さんの部屋にあったと思われる、残りの障子の紙などは、樋田哲雄の部屋から発見された。

 どうして捨ててしまわなかったのか、僕には分からない。自分の部屋の障子を、替えるつもりだったのだろうか?

 ちなみに亜依ちゃんは、特に罪に問われることはなかったようだ。しかし、厳重注意は受けたようだ。

 そして、亜依ちゃんの写真だが――

 何が写っていたのかは、教えてもらえなかった。

 鞘師警部や工藤刑事にも聞いたのだけど、プライバシーの問題もあるからと、教えてもらえなかった。

 亜依ちゃん本人には、さすがにはっきりとは聞けなかったが、なんか恥ずかしそうにしていたな。

 まあ、亜依ちゃんが逮捕されるようなことはなかったから、特に犯罪と関係があるような写真ではないのだろう。

 このことは、これ以上聞くことはやめておいた。亜依ちゃんは、辻田さんと幸せになってほしい。

 そして――

 僕も、明日香さんと幸せになれたらなぁ……。

 そんな思いで、僕は明日香さんを見つめていた。

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探偵、桜井明日香7 わたなべ @watanabe1028

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