第5話 十数年後

あれから、何年がたったんだろう?やっとのことで僕はこの物語を完成させた。そして今、パソコンの投稿サイトに僕の、いや、僕達の物語をアップしたところだ。昨日も徹夜でこの作業をしていたので眠かった。

(少し寝よう...。)

そうして僕は深い眠りに落ちた。

「パ...は...お...て。」

(うん...?誰かに呼ばれている...。)

「パパ、早く起きて!いつまで寝てるの!」

今年で小学五年生になる娘の瑞希が僕の体を揺らしていた。

「うん......あっ、あれ、今何時?」

「もう夕方の16時だよ。」

「そっか...ありがとう、瑞希。」

「うん、リビングにママがいるから、早く行ってあげて。せっかくの休日なのにパパがずっと寝てたから、少し寂しそうだったよ。」

そう言って疲れている僕の体を優しく起こしてくれた。

(やっぱり気遣ってくれるところは、母親に似てるのかな...)

そんなことを思いながら、起きた僕はリビングに向かった。僕はそこで見覚えのある光景を見た。外からさす光がリビングを黄金色に染めていた。彼女はそこで本を読んでいる。

(今思うと、この光景を初めて見た瞬間から僕は、弥生のことが好きだったのかもしれない)

「あ、やっと起きたんだ。おはよう、翔太。」

彼女は僕に気づいて本を閉じながら声をかけてきた。

「おはよう、弥生。」

そう言いながら僕はその場に立ち止まっていた。

「どうしたの、こっちに来ないの?」

「いや、なんか、最初に弥生と会った頃を思い出すなぁって思って。」

「そういえばそうだね、私あのときから変わらず、夕日って好きなんだよね。あの光が、どんなに辛いことがあっても浄化してくれているような気がして。」

「そうだね、僕も好きだよ。」

「夕日が?」

「弥生のことが。」

「もうやめてよ。」

そう言いながら弥生は夕日で少しわかりづらかったけど顔が赤くしていた。

「ラブラブだねぇ~、お二人さん?」

瑞希がニヤニヤしながらこっちを見ていた。

「もう、瑞希までからかわないでよ~。」

弥生は恥ずかしそうに両手で顔を隠していた。

「あ、そういえば、さっき郵便で綺麗な花と手紙が届いていたよ。」

瑞希は手に持っている花を僕達に渡した。それは綺麗な白色の胡蝶蘭だった。

そして白い封に入った手紙。

「誰からだろう?」

「そうだね...。」

僕達は疑問に思って手紙の方を開いてみた。

『拝啓 お二人ともお元気ですか?

私は今、小さな田舎の花屋さんでうーちゃんと仲良く一緒に働いています。経営はとても大変だけど、毎日がお二人のように充実したものになっていますよ。時間があったら是非、うちの店に遊びに来てください。そういえば最近、神無月様が来店してお花を八百本くらい買っていってくれました。私はさすがにと思ったんですけど、「IT企業の送別会で使うからものだから安心しろ。」と自信満々に言っていました。凄いですよね、神無月様は入社して三年で社長になっているんですよ。やっぱり、あの方は神々しき存在...あ、このままだと神無月様の話が終わらなくなりそうなので止めときます。最後に一言だけ、物語、完成したら是非私に見せてください。うーちゃんにも見せてあげたいので。それではまた、どこかで会いましょう。 神林皐月』

僕達は手紙を読みながら少し泣いてしまっていた。

「パパ、ママ、何で泣いてるの?」

瑞希が心配そうに聞いてきた。

「ごめんね、いろいろと昔のこと思い出しちゃって。」

「なになに?パパとママの出会いの話?聞きたい聞きたい!」

僕が玄関先の花瓶に花を入れてようと歩き出したときに瑞希が面白そうに聞いてきた。

「そうだね、話そうか。」

僕は貰った胡蝶蘭を玄関にある花瓶にいれて、夕日がさす君のもとへ歩いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夕日が指す君のもとへ 白ラムネ @siroramune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ