第3話 悪魔と頼もしい仲間達
あの暴行事件から一週間がたった二月の中旬の学校は、とても冷たかった。冬だから空気が冷たいっていうのもあるけれど、それよりも冷たいのは男子達の視線だった。さすがにあの暴行事件ほど酷いものは無くなったけど、陰口や変な噂なんかが毎日のようにあった。最近で一番酷かったのは、『あの根暗が、あの葉月様を強引に手込めにした。』って言うものだった。さすがにその噂を聞いたときには呆れたなぁ。担任の先生にもお前まさかみたいなこと言われたけど、僕のこの性格からそんなことする勇気ないことくらいわかってくれないかなぁって思ったね。勿論、先生には「そんな噂、真っ赤な嘘です。」って言い切ったけどね。暴行事件よりましだけど、こういう噂を流したりするのは弥生さんも巻き込んじゃうから本当にやめてほしいなぁ。ちなみにあの親衛隊さん達は、あの後先生たちにこっぴどく怒られて、二週間停学処分になったらしいです。
(本当にこの短期間で、いろんなことが起こりすぎて体力的にも精神的にも疲れたなぁ)
「翔太~、私の話聞いてる?」
「え、あ、うん、聞いてるよ。」
「絶対聞いてなかったでしょ。」
「うん、ごめん...。」
「最近、馬鹿みたいな噂多いしね、しょうがないと思うよ。でも、私と話してるときぐらいそんなこと考えずに二人の時間を大切にしようよ。いつでも側にいられる訳じゃないんだからさ。」
「そうだね、ごめん。」
「はい、そのすぐ謝る癖も禁止。」
「ごめんなさ、あ、うん...。」
「はい、よく我慢できました。」
そう言いながら微笑む彼女を見ると、僕は疲れきった体が少し楽になった気がした。
「弥生さん。」
「ん?何、翔太?」
「ありがとう。」
「え?ど、どうしたの?急に。」
「いや、何か弥生さんの笑顔を見てたら、元気が出てきたよ。」
「そうなの?翔太を元気付けられて良かった。」
僕たちがそんなことを話していると、急に廊下がざわざわし始めた。
「いつも昼休み、廊下は静かなのに今日はなんだか騒がしいね、何かあったのかな。」
そう彼女が言った次の瞬間、勢いよく教室の扉が開いた。
「葉月って言う子がいるのってこのクラス?」
そう言いながら、上級生らしき人がこのクラスに入ってきた。しかもとても美人な人だ。僕は突然のことで驚いたが、もっと驚いたのはその人に明らかに怯えている弥生さんの姿だった。
「葉月さんならあそこにいますよ。」
そう言いながら、クラスの男子がこっちを指さした。
「あ、本当だ、ありがとう。」
そう言って、その美人さんは近づいてくる。そして、弥生さんの前で止まった。
「何か、私に用ですか...?」
そう言って、彼女はいつもよりも元気のない声でその美人さんに問いかけた。
「何か用ですか、だぁ?あなたわかってるよね私がここに来た理由分かって言ってるよね?」
「.....。」
「何?だんまりですか?またそうやって可愛い子ぶって逃げるわけ?」
「ちょ、ちょっと待ってください。言ってる意味がわからないんですけど。」
「は?誰あなた?」
「ぼ、僕は、やよ、いや、葉月さんの彼氏の如月です。」
「ああ、あんたがあの暴行事件の被害者?大変だったねぇ、彼女のせいで巻き込まれちゃったんでしょ?」
そう言って、怯えている弥生さんの方を向いた。
「そんなことないです。」
「いいよ、いいよ、無理しなくても。彼女中学校のころもこういうことあって、そのときはなんだっけ?相手を不登校にさせちゃったんだっけ?貴方もそうなっちゃう前に別れた方がいいよ。」
そう言って、その美人さんは僕の方を見てきた。
(昔の相手?不登校?どう言うことだ?)
「そうやって私の大切な人を脅すようなことを言うのはやめてください!椿先輩!」
そう彼女は、涙目になって訴えた。
(椿先輩?え!あの霜月椿?!どうりで美人なわけだ)
「ねえ、如月君だっけ?」
「な、なんですか?」
「こんな女と一緒にいたら危ないから私と付き合いなさいよ。そっちの方が楽で良いよ。暴行事件なんて起こんないしね。」
「え...はあ...。」
(暴行事件が起こらないのは良いけど...)
「翔太?翔太は私を裏切ったりしないよね?」
そう弥生さんは、心配そうに僕に問いかけてきた
「今、私は如月君と話しているの。貴方は黙っててくれない。で?どうなの悪い話じゃないでしょ?」
そう言いながら、椿先輩は僕の頭を撫でてきた。僕はゆっくり椿先輩の手をつかみ、振り払った。
「え?何で?」
そう言いながら僕の予想外の行動にびっくりした椿先輩は、こっちを見ていた。
「僕は弥生さんの過去について詳しくは知りません。でも、これだけは言えます。僕は葉月さんに救われました、だから彼女を裏切ることは絶対にしないし、そうやって表面上だけの同情で近づいてくる貴方となんか付き合う気はありません。」
僕は、椿先輩に強くそう言いきった。
「君、後で後悔しても知らないからね?」
そう小さな声で椿先輩は呟いて、教室を出ていった。
「翔太、ちょっと来て...。」
そう言って、弥生さんは僕の腕をつかみ、今はほとんど使われていない旧校舎の空き教室に僕を連れてきた。彼女は空き教室に着いた途端に黙りこんで下を向いていた。僕は困ったが、これでは話が進まないので、あえて直球で聞いてみた。
「それで、相手が不登校になったってどういうこと?弥生さん。」
「.....。」
「黙っててもわからないよ、ちゃんと話して。一応僕は君の彼氏なんだから。僕だって、それが弥生さんにとってどんなに暗い過去だったとしても、弥生さんが僕の過去をちゃんと受け入れてくれたように、僕も受け入れてあげるから。」
そう言うと、弥生さんはゆっくりこっちを見た。僕は、凄く驚いた。弥生さんが泣いていたからだ。
「え!だ、大丈夫?えっと、い、一旦落ち着こう。」
「うん...ごめんなさい。」
それから少しして、弥生さんは涙をぬぐい落ち着きを取り戻した。そして、ゆっくり僕の方を見て話し出した。
「前にも私の中学校の頃の話少しだけしたでしょ。そのとき私が自分を塞ぎこんだって言ったじゃん。そうなったのには容姿だけ原因じゃなかったの。私は昔付き合っていた人を守りきれなかったの。」
弥生さんは、涙をこらえながら話を続けた。
「私ね、翔太と付き合う三年前の一月ぐらいまで付き合っていた男の子がいたの。入学の時に向こうから告白してきて、私それまで自分に近づいてくる人がいなかったから、興味本意でオッケーしちゃったの。それからクリスマスぐらいまでは何もなかったんだっけど、冬休みが終わったくらいから彼が学校に来なくなったの。連絡もその頃から途絶えちゃって、私不安になって彼の家に行ったんだけど、親御さんが出てきて、もう彼に近づかないでって言われたの。どうしてって聞いたら、私の知らないところで翔太が体験したような暴力事件や酷い嫌がらせを受けて、うつ病状態になっちゃったらしいの。それでも会いたいと、親御さんに無理言って頼んで会わせてもらったんだけど、もうその頃には手遅れで、お前の顔なんか一生見たくないって言われて彼の部屋を追い出されちゃったの。クリスマスも相当無理していたみたい。それから、自分の近くにいる人は不幸になってしまうって思って自分を塞ぎこんだの。そしてこれは私が彼と別れた後から聞いた話なんだけど、その暴力事件や嫌がらせを裏で率いいてたのが椿先輩だったらしいの。」
「そんなことがあったんだ...。」
「で、でも、翔太は彼のようにしない、私が絶対守るから。だから安心して。」
「うん。僕もあの先輩に弥生さんを困らせたら痛い目見るって言うこと思い知らせてやらないとって思ってたから。きっと、最近の酷い噂もあの人の仕業だね。」
「うん、十中八九そうだと思う。でも、これからどうするの?」
「それなら、安心して。こういうときに頼りになる先輩がいるから。」
「頼りになる先輩?」
「うん。あ、でも、もうすぐ昼休みが終わっちゃうから、放課後その人に会いに行こう。」
そう言って僕は弥生さんの手をつかみ、教室へ向かった。いきなり僕が手をしっかり握ってくるもんだから、泣きそうだった弥生さんもちょっと嬉しそう微笑んでたね。良かった。そして僕達は教室に戻り、何事もなく午後の授業が受けて、放課後を迎えた。僕は、弥生さんを連れてある人のところへ向かっていた。
「翔太、いったいどこに向かってるの?」
「まあ、行けばわかるよ。弥生さんもきっと、知ってる人だと思うから。」
「私も知ってる人?」
そう言いながら考えている弥生さんと一緒に僕は、今の季節は受験でほとんど誰もいない三年の教室に着いた。
「失礼します。あ!先輩!いたいた。」
そう言いながら、僕はその女の先輩に近づいていった。
「あれ?如月君、珍しいね、どうしたんだい?」
「お久しぶりです、先輩。前に会ったのは、冬休み前ぐらいでしたっけ?」
「そうだね、そのぐらいかな。」
僕がその先輩と話しているとき、弥生さんは呆気にとられたように口を開けてこっちを見ていた。
「それで先輩、唐突で申し訳ないんですけど、ちょっと頼み事があるんですけど.....。」
「ちょ、ちょっと待って、翔太。こっち来て。」
「先輩、ちょっとすいません。」
そう言いながら頭を少し下げて、僕は弥生さんの方へ行った。
「翔太、単刀直入に聞くよ。どうして翔太が神無月先輩と知り合いなの?」
「ああ、それは...。」
「それは私が説明しよう。」
そう言って、神無月先輩が自信満々に入ってきた。弥生さんは少し驚いていたが、先輩の自信に押される形で「お願いします。」と言っていた。
「あれは、君達がこの高校に入学してきて一ヶ月くらいがたった頃かな。放課後に私が一人で図書室委員の仕事をしていたんだが、その日はやたらと仕事が多くてね。困っていたところを、如月君が助けてくれたんだよ。そのとき図書室に彼しかいなかったっていうのもあったけど、彼はなんの文句も言わず、自ら進んで手伝ってくれたんだ。そのときの彼はかっこ良かったぞ。自分で言うのもなんだが、私は勉強もできるし、運動もそこそこできていたせいか、完璧超人みたいな感じに回りから見られていて、気軽に話す人や頼る人がいなかったんだ。だから、それを機会に色々と図書室で話してみたら彼と結構本の趣味があってね、同じ本を愛するものとして私は嬉しかったよ。いつか、仕事を手伝ってくれた事の恩返しができたらなって思っていたんだけど、私は推薦受験組で、そこから会うことが少なくなってしまったんだよね。推薦で大学受かってから、時間ができたので如月君に、何か手伝えることはないか?と聞いていたんだけど、僕は何も恩を着せるようなことはしてませんよ。と丁重にお断りされてしまってね。如月君が私を頼ってくれて嬉しいよ。そう言えば彼女は、グランプリの事件の子だろう。如月君の彼女の白鷺弥生さん?」
「な、なんで私の名前を...。」
弥生さんは隠していたはずの自分の本名をいきなり当てられて、とても驚いていた。
「私の親衛隊とやらの情報網をなめないでほしいな。それ君の過去の事も知っているよ。で、頼み事とはなんだい?」
そう言いながら、先輩は真剣な目で僕の方を見てきた。
「はい、その事なんですけど、神無月先輩には出来るだけ弥生さんの事を守ってほしいんです。」
「待って、翔太。なんで、翔太自身じゃなくて私なの?私の過去の事を聞いた限り、狙われる可能性が高いのは私じゃなくて翔太の方でしょ。」
弥生さんは、僕の予想外の発言に驚きを隠せなかった。
「弥生さん、それは違うよ。」
僕は平然とそう答えた。
「な、何が違うの?」
やっぱり、僕の発言の意味を弥生さんは理解していなかった。
「弥生さん。もしも、僕が狙われたとして椿先輩側にメリットがあると思う?」
「メリット?」
「そう。じゃあ、少し言い方を変えて、仮にだよ、僕がまた暴行を受けたとしても、この高校のグランプリで一位とった弥生さんの人気は下がらないでしょ。実際あの暴行事件の後も、僕が見る限り弥生さんの人気は全く落ちてないしね。そして彼女、いや、椿先輩の最大の目的は、弥生さんの人気を下げて自分が学校で一番になることだろうから、僕に手を出しても先輩側には、なにもメリットは無いんだよね。」
僕の推理を聞いた神無月先輩は、感心したように頷いていた。
「そうだね、如月君。椿は去年のグランプリでも同じような手を使って私を陥れようとしていたが、私の親衛隊とやらは有能でね、私を全力で守ってくれたよ。そのお陰で、去年のグランプリ優勝は私が取ったのさ。だから、安心して私に守られてくれ、白鷺さん。」
神無月先輩はそんなことを自信満々に胸を張って言ってきた。
(この神無月先輩の絶対的な自信には感心させられるところがあるなぁ)
「私は良いかもしれないけど、翔太はどうするの?」
不安そうな顔で弥生さんは僕に聞いてきた。
「僕は、そうだなぁ、神無月先輩。」
「どうしたんだい?如月君。」
「神無月先輩の親衛隊のなかで、椿先輩と同じ中学校の人っていませんか?」
「う~ん...すぐにはわからないが、ちょっと聞いてみるよ。」
「出来れば、女子でお願いします。身近な証言が聞けると思うので。」
「それを聞いて、君はどうするんだい?」
「椿先輩を黙らせます。弥生さんを傷付けたので。」
「翔太.....。」
弥生さんは、見つめるように僕を見てきた。
「ふふっ、白鷺さん、君はちょっと私も嫉妬してしまうぐらい翔太くんに愛されているね。」
神無月先輩は、ニヤニヤしながら弥生さんと僕を見てきた。
「そ、そんなこと無いですよ。自分の彼女を守るのは当然の事ですって。」
そう言いながら弥生さんの方を見てみると、恥ずかしいのか、嬉しいのかわからないけれど顔を真っ赤にして照れていた。
「まあ、そんなバカップルぶりを目の前で見せられて、私は少々困っているが、如月君には恩がある。私も精一杯尽力させてもらおう。」
「ほんと、なんかすみません。でも、弥生さんをお願いします。」
「うん、任された。」
神無月先輩の包容力に感謝して、僕達は帰路に着いた。
帰り道の途中、弥生さんと僕は、今後の事について話していた。
「多分、予想では明日からでも仕掛けてくるだろうから、危ないときは神無月先輩のところに避難してね。」
「うん、わかった。翔太も無理しないでね。」
そう言いながらも弥生さんは、ちょっと不安そうだった。
「どうしたの?弥生さん。」
「なんか私が守るって言ったのに、私が守られているから申し訳ないなって...。」
「しょうがないよ、標的が僕じゃなく、弥生さんなんだから。」
「うん、でも、翔太が守ってくれるんだったらどんなことが起こっても安心だね。」
「うん、俺頑張るから。」
弥生さんのこの笑顔を見るたびに、僕はこの問題を早く解決してあげたいという衝動にかられた。その三日後、予想通りあの先輩は仕掛けてきた。弥生さんの上履きが無くなっていたのだ。しかし僕はそれぐらい想定内だったので、予備で買っておいた上履きを弥生さんに使ってもらった。
「はい、弥生さん。これを使って。」
「うん、ありがとう、翔太。」
僕らのわかりきっていたと言われているような対応を見て、椿先輩の親衛隊らしき人たちが、舌打ちしていた。
(僕もそろそろ動き始めないと...)
僕は、その日の放課後に弥生さんと一緒に神無月先輩のもとに行っていた。
「予想通り、椿が仕掛けてきたね。」
「はい、今どきのいじめは携帯電話のSNSやコミュニケーションアプリを使ったものが増えてますけど、弥生さんと椿先輩にそういう繋がりは無いと思ったので、もっと、小学生がやるような間接的でかつ相手にわかるように来ると思いましたよ。」
(実際、その予想通りすぎて僕自身も少し驚いているけど)
「翔太って、凄いんだね。」
「私も少々驚いているよ。」
二人とも、僕の対応力に感心していた。
「僕は、人間観察とプロファイリングは得意ですから。大体の人の行動の特徴とかがわかるんですよ。」
これも、僕がボッチのときに極めた技の一つだ。いじめなどの特徴はネットとかから勉強したものが多いけど。
「じゃ、じゃあ、私の行動の特徴とかわかるの?」と興味本意で弥生さんが聞いてきた。
「弥生さんの特徴は...例えば、緊張しているときは必ず手を合わせてるよね。」
「え?!そ、そうだよ。なんでわかったの?翔太に言った覚えないのに...。」
「他にも、嘘つくときは、目が右斜め上に少し動いているし、トイレを我慢しているときはいつもよりこ...」
「はい、ちょっと待って!も、もういいから、わかったからこれ以上言わないで。」
僕が続きを言おうとするのを止めるように弥生さんは言ってきた。本人は物凄く恥ずかしそうだったので、ちょっと言い過ぎた、と僕は反省した。
「あはは、ごめんごめん。聞かれたから、つい。」
「如月君って敵に回すと怖そうだよね。」と神無月先輩に少し引かれぎみで言われてしまった。
「じゃ、じゃあ、神無月先輩の特徴ってあるの?」と弥生さんは標的を自分から変えるように言ってきた。
「私は、ポーカーフェイスが上手いと自分では思っているから、そんなに無いはずだよ」
またもや、先輩は自信満々にそんなことを言ってきた。その自信をかき消すように自分がわかる先輩の特徴を何個か言ってみたら、「ま、待て、待つんだ如月君。それ以上言うな。言わないでくれぇ~!」
と神無月先輩が顔を赤くしながら全力で止めてきた。
「あはは、って言うかこんな話してる場合じゃありませんでしたね。」
僕は、彼女たちの特徴を話すのに夢中で、この場に来た意味をすっかり忘れてしまっていた。
「そうですよ、早く本題に入ってください。」といきなり後ろから、知らない女子生徒が話しかけてきた。僕は突然の事に驚いた。しかも、その人も弥生さんや神無月先輩程では無いが、結構な美人さんだった。
彼女がいきなり出てきた理由はここに来た理由を考えれば大体予想がつくが、このままだと話が進まないので一応「誰ですか?」と聞いてみた。
「私は、京華様親衛隊四大幹部の一人、神林皐月と申します。以後お見知りおきを。」
神林さんはご丁寧にお辞儀までしてきた。
(今、親衛隊の幹部って聞こえたような...)
すごく気になったが、僕はその事には触れないようにした。
「そ、そう、大体この状況から察しているだろうけど、彼女こそ、中学校の頃に椿と同学年で面識があり、椿の化けの皮を剥がせる最有力候補なのだよ。」といつもの調子が戻ったのか、自信満々で神無月先輩は彼女を紹介した。
「ご紹介ありがとうございます、京華様。それで私は、あいつの何を話せば良いのですか?」
(あいつ?)
「ああ、彼女は中学校の頃から椿の事を嫌っているんだよ。」と神無月先輩に補足説明をもらった。
(この人は怒らせたらヤバそうだなぁ)
そう思いつつ、椿先輩の裏の顔を神林さんに聞いていた。
「彼女の裏の顔ですか...そうですね、そこにいる弥生さんでしたっけ?」
「はい、そうです。」
「あなたが今日受けた物隠し、あれはまだ第一段階ってところですかね。」
「段階があるんですか?」
僕は、女子のいじめの事に詳しいわけではなかったので、彼女の意外な言葉に驚いてしまった。
「人それぞれだと思いますが、彼女の場合、第一段階が物隠し、それが効かないとわかると第二段階である、陰口や嘘の噂を流してきます。」
「そうなんですか...でも、なんで神林先輩はそんなに椿先輩のこと詳しいんですか?」
そう質問した瞬間、彼女の表情が少しだけくもった。そして僕達に顔が見えないように後ろを向き、ゆっくり話し出した。
「私には昔、小学校のときからの親友がいました。その子は私と違って愛想がよく、男子からも女子からも慕われていた子でした。でも、中学校に入って少したった頃に、あいつに目をつけられてしまったんです。そこからは酷かったですね、彼女の靴がプールに捨てられていたり、彼女の聞こえるところで陰口を言ったり、当然、彼女は先生にも相談したのですが決定的な証拠がなかったのでダメでした。私もいろんな手を使って彼女を助けようとしましたが、もうすでに手遅れで、彼女は不登校になり、結局転校してしまいました。それが、弥生さん、あなたが入学する二ヶ月前の話です...。」
神林先輩の肩が少し震えていた。
「そんな...被害にあっていたのは彼だけじゃなかったんだ...。」
弥生さんは自分の手を強く握りしめて、先輩の方を見ていた。
「その時から、私はあいつのことを恨んでいます。だから、京華様からあなたたちの話を聞いたときに、迷わず協力してあげようと思いました。」
神林先輩はさっきの話で少し泣いていたのか、目を潤ませながら振り向き、僕達を真っ直ぐ見てきた。僕は、先輩がどんな気持ちでこの話をしてくれたかはわからないけれど、先輩の悔しい気持ちや協力してくれる優しい心を無駄にしないように、必ずや椿先輩を黙らせようと強く思った。
「でも、神林先輩。今後、どうやって対処していくんですか?」
僕は、今一番の問題を先輩に質問した。
「それなら、安心してください。さっき私が言ったように、第一段階が効果なしとわかったので、あいつは次の段階に移るはずです。そこを狙いましょう。」
「で、でも、物的証拠が無い分そっちの方が対処が難しいような...。」
僕は、その事に困っていた。でも、神林先輩は焦る様子もなく、僕達にこんなことを言った。
「私が、この話を聞いてからの今日までの三日間なにもしてなかったとお思いですか?」
「え?どういうことですか?」
僕は神林先輩の言葉の意味が、まだ理解できていなかった。
「これがあれば、あいつが仕掛けてきたときに確実に黙らせることが出来ます。」
そう言って神林先輩が取り出したものを見た瞬間、僕はさっき言った言葉の意味を全て理解した。そして、椿先輩に確実に黙らせることが出来ると自分自身も思った。その翌日、予想通り椿先輩は第二段階に移して、嘘の噂を校内に流していた。それは、僕と弥生さんがほとんど使われていない旧校舎で性行為をしたという酷いものだった。僕達はもちろん、「真っ赤な嘘です。」と主張したのだが、放課後に指導室に来るようにと、先生に言われてしまった。なんでこんな普通は信じないような噂で先生達が動いたかというと、目撃者がいたかららしい。その目撃者は間違いなく椿先輩の親衛隊か本人だろうと思い、僕は弥生さんを連れて、昼休みに神無月先輩と神林先輩のところに行っていた。
「意外に仕掛けてくるのが早かったですね。まあ、早いのはこちらにとっても好都合ですけど。多分、親衛隊の方が出て来るのではないかと私は思うんですが、万が一にもあいつが出てきたときには、私に任せてください。神無月様と一緒に助太刀します。」
神林先輩は落ち着いた表情でそう言っていた。
「で、でも、本当に大丈夫なんですか?」
弥生さんは、まだ上手く行くか不安に思っているのか、心配そうに先輩たちに聞いていた。
「皐月君がいれば、大丈夫だ!よし!放課後、椿との最終決戦だ!!気合いを入れていくぞ!!!」
「「「「お、おおーー!!!」」」」
神無月先輩の自信満々の掛け声とともに、僕も弥生さんも押されぎみに気合いを入れた。
そして後に、この高校でリアル逆○裁判と語り継がれる伝説の放課後が始まる。
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