第43話 思惑
――油断させやすい見た目
それは一体全体どう言った容姿のことを指すのだろう。
背が小さい? 低姿勢? 笑顔か、笑顔が駄目なのか?
私は内心で盛大なため息を吐きながら、ひぃちゃんを頼って空を飛んでいた。スクォンクの洞窟からドヴェルグの鉱山に向けて。
目指すはドヴェルグの「名工」さんがおられる建物だ。
――名工さんとは十二あるドヴェルグの鉱山のシュスの総指揮官。各シュスに特に難しい依頼を受ける「大職人」さんがおられて、その更に上におられるのがより高難易度の依頼を受ける「名工」さんなのだ。
誰よりも強い発言権と職人魂というやつをお持ちの方に会いに行くのには、それ相応の理由がある。
それでもやっぱり緊張するだろう。
私は今にも口から漏れそうなため息を飲み込んで、闇雲君と一緒にドヴェルグ・シュス・アインスへと向かっていた。
「……凩さん、俺どうしたらいいの」
「……話をしましょう、大丈夫」
二人で顔を引き攣らせながら笑い、ドヴェルグ・シュス・アインスのお城のテラスに足を着く。教えてもらった名工さんの部屋はここの筈だ。
大丈夫、落ち着け。
「ここ、ですねよ」
「だと思います」
闇雲君と私は顔を見合わせて頷き合う。ルタさんとの同化を解いた闇雲君の顔色は悪く、私は苦笑してしまった。左胸につけた花のブローチを撫でながら。
「祈、歩けるか?」
「……歩ける」
ルタさんに心配されつつ裸足で鉱石の床を踏んだ闇雲君。私はそれを確認して窓の縁を叩いてみた。偉い人に会う場合きちんと正門から入って手順を踏んで挨拶するのが模範解答だろうが、残念ながら私達にその時間はない。
ノックに応答してくれたのは一人のドヴェルグさん。彼は首を傾げながら窓を開けて私達を見上げていた。私は自然と笑ってしまい、闇雲君はフードの裾を引いている。
「ディアス軍の戦士じゃねぇか。どうしたんだ、生贄探しにしては穏やかだな」
髪のない頭を掻くドヴェルグさん。彼の両手には汚れた手袋が
「貴方が、ドヴェルグの鉱山の名工さんでお間違い無いですか?」
「あぁ、そうだな」
私は努めて笑い、中に入れてくれた名工さんに続く。闇雲君とルタさんも一緒に入り、私達は窓を閉めた。
部屋の中には鋭く研ぎ澄まされた剣や大きな盾、目が沢山ついたヘルメットなど、多種多様な道具が並べられていた。どれもこれも相手には持っていて欲しくない代物だ。
「わざわざ俺の所に来るとは、それだけの理由があるのだろう? 戦士さん」
「……はい、そうですね」
答えた私はブローチを二回叩く。名工さんは一つの剣を持って私達の方へと顔を向けた。
「理由を聞こうか、ここに来たのは武器を作らせる為か、それとも俺を生贄にする為か」
ドヴェルグさんの鈍い眼光に見つめられる。
私の口角は上がり続け、鋒は隣に立っていた闇雲君に移動した。闇雲君の頬を冷や汗が伝い、ルタさんが瞳孔を開いてる。
私の喉は締め付けられるような息苦しさに襲われた。
「生贄に、するかどうかを決めに来たんです」
言葉を絞り出す。名工さんの目は細められ、私の心臓は喉から飛び出すのではないかと錯覚するほど激しく脈打った。
また鋒が向けられる。私は努めて微笑み、名工さんは何も答えなかった。
あぁ、駄目だ、口が馬鹿になりそう。
「私達は悪を連れて行きます。シュスに住む誰もが悪だといい、私達の尺度で測った時も悪だと思えるその人を」
「ほぉ、ではあんたがたは、俺がその悪かどうかを
「はい」
微笑んで首を縦に振る。名工さんは目を細めると、剣を引いて壁に立て掛けていた。
私は静かに息を吐いて冷や汗を拭う。半泣きのらず君の額を撫でると、彼は微かに光ってくれた。
「それで? どうやって判定する気だ?」
「質問致しますので、それに答えていただけたら結構です」
作業椅子であろう腰掛けに落ち着いた名工さん。彼はパイプ煙草のような物を咥えて、それは火をつけてもいないのに煙を発生させた。
「自分で言うのもなんだが、俺は依頼主達からもドヴェルグ達からも信頼されてる自信があるぜ」
「デックアールヴからも?」
闇雲君が聞いてくれる。
その問いに一瞬顔を
その目は伏せられて、口から煙が吐き出される。
私はそれを吸い込まないようにしながら、質問を重ねた。
「デックアールヴさん達が武器を作りたいと進言してきた時、何故断ったのですか?」
「何故って、そりゃあ
さも当たり前と言わんばかりに名工さんは言っている。私は鳩尾が痛くなりつつも、口角は上げていた。闇雲君が奥歯を噛んだ音が聞こえる。
駄目だよ、ここで感情はいらない。
私は名工さんを見つめて質問を重ねた。
「どうして、デックアールヴさんならば武器を作らせないのでしょうか。
「知らないのかい戦士さん。デックアールヴは不器用だ。
「そう、ベレットさんは言いましたか?」
ベレットさんの名前を聞いて名工さんの眉根に深い皺が寄る。彼はまた煙を吐き出して「いいや?」と答えてくれた。
「ベレットは何度もここに押しかけてきて、武器を作らせるよう言ってきたぜ。一つでいいから工房を開けてくれとね。簡単な注文でいいから分けてくれとも言われたな」
「……断ったんですね」
「勿論。それはあいつらには無意味なことだ」
呆れたような声に煙が交じる。
私は目を細め、頬は痙攣を起こしそうだった。
宿命を重んじてその通りの道を行く。
そう、そうだ、ルアス派はそうなんだ。彼らの正しさとはつまりそこで、デックアールヴさんは武器を作らないのが正しくて、最終確認者であることに疑問を持ってはいけなくて。
闇雲君の握り締められた拳が見える。
「彼らは注文通りの品が作れないと、ドヴェルグさんを断罪するんですよね」
「あぁ、求められた武器が作れねぇドヴェルグに、生きる価値はねぇからな」
「デックアールヴさんは断罪したいと言いましたか?」
聞いてみる。ルアス派として使命を持った彼らについてどう思っているのか。
部屋に煙が充満してきた。
「その質問はおかしいぜ、戦士さん。
煙草の先が向けられる。煙を上げるそれはよく磨かれていて、私は名工さんの目を見つめるのだ。
「ルアス派はそういうもんだ。自分達の種族がルアス派であり始めた頃から、その宿命を抱え、付加される使命を全うしなくちゃいけねぇ。それこそが生き甲斐なんだ。自分の宿命に疑問は持たねぇよ」
記憶の向こうで、死を望んだ奴隷さんを思い出す。
森の管理者であるフォーンさんは、恩には報いる使命を持っていたな。
湖を清く保つ浄化者であるグレイグさんは、戦士を愛する使命が付加されていたっけ。
そんな思い出を懐かしみながら、私は名工さんを見下ろした。
使命は付加されていく。自然発生的に、噂のように、それでも確実に。
それを全員が望んでいるかどうかの意思はいらない。
私は「そうですか」と答えて微笑み続けた。
「名工さん、断罪のシュスをご存知ですか」
「断罪? ……あぁ、ポレヴィーク・シュス・ツェーンだろ。一番働いた奴を断罪するって聞くな」
「それ、発端はベレットさんですよ」
「……は?」
信じられないものを見る目を私に向ける名工さん。
何も知らない彼に、私は自分が知ったことを伝えていった。
「ポレヴィーク・シュス・ツェーンは不作に悩んでいたんです。それは宿命を果たせないことで、規律に厳しいポレヴィークさん達は解決策として、自分の体を肥料にすることにした。けれども、そうすれば畑を耕すことに支障が出る。そこで、ベレットさんが提案したんです。一番働いた人を殺して肥料にすればいいと」
「なにを、」
「デックアールヴであるベレットさんは、殺してきたからです。武器を作り続ける職人であるべきドヴェルグさんが、求められた武器を作れないならば首を落としてきた。だから同じように、ポレヴィークさん達に提案したんです。果たせないならば死ねと。死んで果たせと」
「おい、」
「でも、それ以外の目的が本当はあった」
「戦士、」
「彼らは渡していたんです――自分達が作った武器を」
名工さんの目はこれでもかと見開かれ、彼の動きも言葉も止まる。
私は昨日デックアールヴさんが背負っていた大きな袋を思い出し、洞窟でベレットさんが教えてくれたことを
「ベレットさんが作ったのは六つの臼。それはポレヴィークさん達の体を粉にする為の物です。けれどもそうする為にはまず、ポレヴィークさんの体をバラバラにする必要があった」
首を落とす鋭利な刃物。関節を飛散させて外す銃。大雑把に砕く為の鈍器。
それらは全て、農具を必要とするポレヴィークさんは使わないものだ。
「それらを作ったというのか、あの、デックアールヴ達が」
「はい。鉱山の使われなくなった鉱石や、ホログラム用の鉱石を使って」
「そんな、有り得ないッ、デックアールヴが武器を作るだなんて聞いたことがないぞ!!」
椅子から勢いよく立ち上がった名工さんが「作れるわけがない!!」と決めつける。
あぁ、貴方は否定するばかりで、もっと気にすべきところを見落とすんだ。
「彼らは武器を作れるんです。ずっと作りたくて、貴方達の作業を見てきたから」
「見様見真似で不器用なデックアールヴが武器をだなんて、失敗作の山だろ!」
「確かに良作ではなかったそうです。一度使えば壊れてしまう盾や、ポレヴィークさん達の首を数回しか落とせない剣……それでも、
「なんて無駄なことをするんだ、あいつらは!! 自分達の勝手で宿命を無視しやがってッ、ポレヴィーク達もなんて馬鹿な決断をしやがる!!」
髪のない頭を名工さんは掻き毟る。床に落ちた煙草は煙を上げ続け、私はそれを近くの机に置いた。
名工さんは「違反だ!」と何度も叫び、私達がここに来た本来の目的を忘れていく。
それでいい、貴方は油断をするべきだ。
「気づかない?」
「あぁ!?」
癇癪を起こしている名工さんは闇雲君の声に振り向く。喋り疲れた私の代わりに、闇雲君は喋り始めてくれた。
「ホログラム用の鉱石を、デックアールヴ達は使ってたんだよ」
「それがどう……」
名工さんの言葉が止まり、彼は自分の口を押さえる。
闇雲君は続けてくれた。フードの端を引きながら。
「ならどうやって、最終確認してたと思うわけ?」
「……してないのか、あいつらッ」
「いいや、違う、別の方法でしてたよ」
違う答えを出した名工さんを闇雲君は直ぐに訂正する。
答えが分からないドヴェルグさんは、首を傾けながら闇雲君を見つめた。
ルタさんの瞳が微かに輝いている。
「スクォンク達だよ。泣き続けるあの子達を、ベレット達は確認の為の的にした」
「……スクォンク」
名工さんは呟き、ふと――笑う。
彼は肩を揺らして「スクォンクか!」と膝を叩いていた。
闇雲君の手が握り締められる。
「そりゃあいい!! 泣くだけのあいつらに意味を与えたか! ベレットは!!」
あ、
その言葉を聞いた瞬間。
闇雲君の雰囲気が一気に変わり私の腕に鳥肌が立つ。
肩で翼を広げたルタさんから鋭い羽根が零れ落ち、名工さんに打ち出された。
空気を裂いて飛ぶ漆黒の羽根。
それがドヴェルグさんの肌を傷つける。
醜い悲鳴を上げた名工さんは至る所に傷ができ、服の裾は羽根で壁に縫いとめられた。
まるで標本の蛾みたいだ。
鳩尾の奥で感情が混ざって煮え立ち、自然と深呼吸してしまう。
「何人死んだと思ってんだよッ!!」
闇雲君の拳が握られ、名工さんの顔を殴り飛ばす。
闇雲君のフードは落ちて肩で息をしていた。
名工さんは血が混ざった唾を吐き出して笑っている。
「何人死のうが誰も困らねぇだろ!! スクォンクだぞ!! 泣くだけの犬に、ベレットは使命を与えたんだろうよ!! デックアールヴの最終確認の的になるって言うな!!」
「このッ」
「祈、駄目だ、これは殴る価値もない」
もう一度腕を振りかぶった闇雲君を諭したのはルタさんだ。私も反射的に闇雲君の拳を触ってしまう。
彼の潤んだ瞳と視線が合う。
私は微笑んで、優しい彼の背中を柔く叩いていた。
「名工さん、最後の質問です。貴方は他の大職人さんがデックアールヴさん達に
聞けば名工さんは黙り、そして、諦めたように笑っていた。
思い出したんだろう。自分が生贄になるかどうかの瀬戸際にいたことを。
「……デックアールヴだからだよ」
「それだけですか?」
「これ以上の理由がいるか? 最終確認者でしかねぇデックアールヴに手解きするなんざ、それこそ無意味だ。誰の利益にもなりゃしねぇ」
「お前が決めんなよ」
闇雲君が低い声を吐いて踵を返す。
私は窓辺に向かう少年を見てから、名工さんを見下ろした。彼はそこで笑っている。
「宿命と使命こそが、俺達の生きる導だ」
「……デックアールヴさんに付加してあげたらよかったと、思うんです。
「大職人が喋ったか」
「教えてくれたんです」
楠さんに、だけれども。その情報は言う必要もないのかな。
勝手に判断して私は会釈し、テラスに向かう。
付加されかけた、デックアールヴさんが待ち望んだ使命。
それを名工さんは握り潰してしまった。
「生贄には出来ねぇだろ」
問われたので、一応振り返って笑ってみる。そこには口角を上げた名工さんがいた。
「何故そう思うんですか?」
「あんたらの尺度で測ったら、たしかに俺は悪だろう。だがシュスの奴らはどうだ、俺を悪だと思うのか? 思わねぇだろうよ。デックアールヴはそういうもんだって全員知ってる」
「……そう、私は思わないので、判断してもらおうと思います」
私は胸のブローチを指さして笑う。名工さんは一度瞬きをして闇雲君が言ってくれた。
「これ、マイクになってるんだ。今の会話、ドヴェルグの鉱山のシュス中に流してある」
「ッ!?」
「ちなみに製作者は、ベレットとその弟子達だよ」
顔面蒼白になってしまった名工さん。私はテラスに出ようとして、部屋の煙が一ヶ所に集まりだしたことに気がついた。
振り向くと、そこには煙で出来た狼の顔があってッ
「獣を作るバーク」
名工さんの声がして、煙の狼が口を開けて突進してくる。
私は後ろに跳躍し、ひぃちゃんが翼をはためかせてくれた。
闇雲君も同化して一緒に宙へ身を投げ出す。
床や窓硝子を食い破ってきた獣は
りず君がハルバードになってくれて、狼の牙に叩きつける。煙と打ち合わせたとは思えない金属音が響き、割れた窓硝子の破片が落ちていくのが視界に入った。
らず君が強く輝いて、ひぃちゃんも勢いよく羽ばたいてくれる。
大丈夫、負けない。怪我は細流さんが治してくれた。だから大丈夫。力は入る。逃げるな、大丈夫、息をしろッ
「凩さん!」
闇雲君の声がする。見ると彼の鳥の片足には赤い玉が握られて、私は笑ってしまうのだ。
「この煙、引火性ですッ」
彼が教えてくれたと同時にひぃちゃんは力を抜き、私は背中から落下する。
りず君は競り合いを止めて、獣は進行方向を闇雲君か私かで悩ませた。
その一瞬を見て闇雲君は玉を投げる。彼の帽子の奥の目は青く輝いて、呟く声が小さくも聞こえた。
ひぃちゃんはまだ、はばたかない。
「ドヴェルグって、熱に強いんだよね」
玉を獣は大きな口で飲み込んで、闇雲君が瞬時に離れていく。
りず君は右腕で薄い布に変わってくれて、私はそれを自分の体の上に勢いよく広げた。
爆発音が響く。
あれは爆弾。小さくも破壊力を持ったそれは機能通り爆発し、獣を焼き、未だに煙が充満する名工さんの部屋の中へも火を届けて行った。
また爆発音がする。
私はりず君で飛んできた破片を払い、ひぃちゃんは羽ばたいてくれた。
熱が肌を焼く。闇雲君は空中で羽ばたき私は腕を振った。ひぃちゃんが闇雲君に近づいてくれる。
燃える部屋から名工さんが飛び出して、テラスの縁へとしゃがみこむ。
私はその光景を見つめてから、ポケットに入れていた星型のマイクを持った。
「聞こえてましたか。結目さん、楠さん、細流さん、スクォンクさん、デックアールヴさん」
確認してからマイクを耳を寄せる。すると楠さんの声がした。
「聞こえてたわよ、全部ね」
それに安心して肩の力を抜く。私はマイクに口を近づけて「了解、です」と返しておいた。
――楠さんとひぃちゃんに、スクォンクの洞窟に来る前にしてもらったこと。
それはマイクとスピーカーの設置だった。
使ったのはベレットさん設計の小型マイクと大音量スピーカー。
学校にいた昼間、楠さんがそういう物があると教えてくれた。楠さんと昨日から一緒にいたデックアールヴさんも作るのを手伝ったということで、とても自慢げに教えてくれたのだと言う。
夜にはスクォンクさん達が的になっていると知って、それは使えるかもしれないと結目さんと話したのだ。
詳細を知っているひぃちゃんは楠さんと一緒に行動してもらい、まず各シュスの中央のお城、大職人さんがおられるテラスにスピーカーを設置してもらった。
ベレットさんの自宅を勝手に物色したらしいが、場所や使い方も一緒に作ったデックアールヴさんが話してくれたらしい。彼は語りたがりだと、楠さんは言っていたな。
それから、スクォンクさん達のシュスの出入口にも最も大きいサイズのスピーカーを準備してもらった。
後は闇雲君と私がマイクになっているブローチをつけて名工さんに事情聴取すれば、シュス中の人に判断してもらえるから。
――デックアールヴさん達は、みんな揃って名工さんを嫌っていた。
自分達の可能性を潰しにかかる強い彼を。自分達を「デックアールヴだから」と決めつける彼を。付加してもらえかけた使命を塗りつぶした彼を。力を振り
行き場を無くした鬱憤はポレヴィークさん達への断罪の手伝いや、スクォンクさん達への最終確認へと矛先を向けた。
デックアールヴさん達は言った。名工は悪だと。
私達は、判断しかねた。
だから準備したものを決行に移したのだ。
「どう思う、俺は悪だと思うんだけど」
闇雲君が燃えるテラスに足をついて同化を解き、星型のマイクに喋りかける。
私は自分のマイクを耳を寄せ、答えを待っていた。
「私もそいつでいいと思うわよ」
「俺も、異論、ない」
「俺もいいと思うな〜、なかなか凝り固まった頭の屑野郎だ! 凩ちゃんはー?」
私はそれを聞いて口を寄せる。
大丈夫だよ、私も彼は、
「生贄にしていいと、思います」
答えれば、星型の向こうからデックアールヴさん達の声が聞こえる。どよめくような、それでも喜びを孕んだ声。
「ベレット」
闇雲君が呼びかける。私はマイクを耳に寄せ、お城の周辺に集まりだしたドヴェルグさんや依頼主の住人さん達を見下ろした。
「あんたが生贄になることは、変わってないよ」
「……あぁ、いいさ、これでいい」
ベレットさんの声がする。穏やかな声はとても満足しているようだ。
闇雲君は奥歯を噛み締めてから、諦めたように笑う名工さんを見下ろした。
私はりず君にネットになってもらい名工さんを捕まえてみる。彼の皮膚は微かに焼けているようだが、特に致命傷というものではなさそうだ。
私はりず君を持ち、紐状になったパートナーの中にいる名工さんを見た。ひぃちゃんが羽ばたいてくれる。宙吊りになった名工さんは私を見上げ、爆発して火が上がった部屋に視線を向けていた。
「……悪だと思うか」
声がする。
小さな声だ。
「生き方に従った俺を、悪だと思うか」
名工さんは静かに聞いてくれる。
怒るわけでも責めるわけでもなく、ただただ答えを知りたいと言う風に。
私は飛んできた闇雲君と顔を見合わせて、彼は言っていた。
「別に生き方を責めるわけじゃない。考え方だ……あんたは決めつけすぎた」
闇雲君はそう言って離れてしまう。
私は名工さんを見て、静かに見つめてくる妖精さんと目が合った。顔が勝手に笑ってしまう。
あぁ、そうだ。貴方のルアス派としての生き方を間違いだとは思わない。
それでも、誰かの道を自分の考えで潰さないで欲しいとも強く思うから。
それはお前も同じだよ、弱虫。
知ってるよ。誰よりも悪であるのは私なんだ。
勝手に多数決して、勝手に悪だと決めつけて、勝手に殺すんだ。
そうしなければ私が死ぬから。死にたくない。負けたくない。生きていたい。
あぁ、うるさい。
「……デックアールヴさん達に付加されかけた使命。それは、そうしても大丈夫だと、誰とは言わずに思ったからだと思うんです」
望みめばドヴェルグの武具を作る手伝いをする。
そこが、別れ目だった。
六年前の別れ目。
名工さんは静かに笑うと、目を伏せて天を仰いでいた。
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