第42話 戦意
武器には様々な種類がある。接近戦用、遠距離戦用、刀、ナイフ、剣、レイピア、ナックル、ハンマー、斧、
それを一度に相手取るとなると、それはそれは骨が折れるわけである。
私は絶賛、対薙刀、棍棒、火縄銃、ロングボウと言う悪夢でしかないコンボを食らっていた。
薙刀が振り下ろされたのを避ければ後ろから棍棒が脳天目掛けて迫ってくる。
だから体勢を低くしながら棍棒を
「ッ、は、ぁッ」
息もつけない緊張感と防戦一方のこの現状。
特注である武器は全て変な能力付きだし。
なんだよ伸びる薙刀って。巨大化する棍棒なんて要望出すなよ。連射出来る火縄銃ってどう言う作りしてんだ。矢が三つにも四つも増えるロングボウ断固反対ッ!!
私は地面を転がりつつ体勢を何とか元に戻す。汗が顎を伝い、土煙が上がった。
フォーンさんとかウトゥックさん達みたいに地面も鉱石のタイル張りにしてくれればこんな煙上がらねぇのにッ、視界が!
らず君の補助を耳に集中させて音を聞く。
左、斜め後方、弓を引く音。
私は右側へ避け、数秒前まで立っていた地面に矢が刺さる。そこは瞬時の溶け始め、笑うしかないなと顔が引き攣った。
「氷雨、何がいい、何なら俺は役に立てる!!」
りず君が悲痛そうに叫ぶ。私はハルバードになってくれていた彼を見て、家の壁を蹴り上がった。
ハルバードは長く、間合いに入らせないように使えばとても強力な武器だ。突くこと、切ること、引っ掛けること、叩くことが出来る。けれど間合いに入られれば難しい。
だから、そう、だから。
私の思いをりず君が受信する。
彼はそうだ、私の思いを一番受信しやすい子。
私は自分に向かった矢をハルバードの先で弾き飛ばし、丸く足場の悪い屋根に足を着いた。
「……マジか」
「うん」
りず君が手の中で震える。それから笑い声を上げるから、私も口角を上げるのだ。
「それで俺が役に立てるなら、してやるさ! 集中しろよ氷雨!!」
「了解、よろしくッ」
りず君と自分を鼓舞する為に返事をする。
その勢いのまま弾丸を避けて地面へ着地し、頑張って光ってくれるらず君をひと撫でした。広場にはスクォンクさん達が集まり始めている。
私は地面を滑り、土煙を上げ、死角からやって来た薙刀を紙一重で避ける。
近づいていたのは棍棒を持ったデックアールヴさん。
ハルバードより内側。近い、足、落ち着け。
私の手の中でりず君が瞬時に短くなり、ダガーナイフへと変形してくれる。巨大化した棍棒は私を狙って振り下ろされて、視界が陰った。
私は体勢を低くしながらデックアールヴさんへと駆け寄り、彼の懐へと入り込む。
大きな棍棒だろうと、それは持ち手に近づくにつれて細くなるからッ
りず君を握り直し、デックアールヴさんへ刃を向ける。
殺さない。傷、大丈夫、少しでいい。横腹、違う、致命傷、しんどい。
私は左膝を地面につき、右膝を立てた姿勢で砂の地面を滑る。ダガーナイフとなったりず君はデックアールヴさんの足を切り裂いて血飛沫が舞った。
悲鳴を聞いて瞬時に立ち上がる。
足が傷つけば、相手の戦意が一瞬削げる。
私は薙刀を視認し、りず君を握る右手をその方向へ突き出した。
あぁ、頭が痛い。
それでも考えることを、思い出すことを止めれば負けるからッ
私の知識を搾り出せ!
歩兵が持っていた長槍ッ
りず君は描く通りの形に変形して、細く長い槍の先がデックアールヴさんの足を傷つける。
薙刀の軸がブレて私の腕を掠めたが、その痛みに屈している時間なんてないんだ。
りず君が勢いよく手の中に針鼠として戻ってくれる。息切れしているパートナーの額を撫でながら私は距離を取った。
連続変形は重労働。りず君の体にも私の頭にも負荷は大きいが相手の攻撃が未知数な以上、こちらも無理をしなくてはいけないだろ。
私の剣は強いから。何よりも鋭利に、強固になれる。
弓が引き絞られる音を聞く。
後ろ、感覚的に右。
振り向いた瞬間、地面に火縄銃の弾丸が炸裂して土煙が上がる。それに視界を奪われた私は後ろへ跳躍した。煙を突き抜けて鋭い矢がこちらへ向かう。
スクトゥム
大きな盾が浮かび、りず君が直ぐに変形してくれる。私はそれを体の前に構えて腰を落とし、矢による衝撃に備えたのだ。
だがそれより早く、りず君の驚きの声が上がる。
「ッうお!?」
突如吹き荒れた突風。
その勢いに驚いて地面に膝をつき、目を固く瞑る。大きな風の渦は矢を吹き上げて武器を奪い、デックアールヴさんの足が浮いた。
何とか開けた視界の端に結目さんの笑みが映る。
彼の右腕が、振り下ろされた。
浮いていた武器とデックアールヴさん達が地面に叩き付けられる。上がった悲鳴と地響きに私は肩を竦めて、自分に向かっていた猛攻が止んだことを確認した。
瞬時に私の目は赤いスカーフを探して、りず君にはハルバードになってもらう。
攻撃が止んでも気を緩めてはいけない。泣き声が反響するこの洞窟はそんなこと許さない。
私は空中にいる結目さんを見る。彼は微笑みを携えて地面を見据えていた。
補助された私の目は結目さんの頬を伝った汗に気がつく。彼の手は微かにではあるが震えており、深く息を吐くのが聞こえた気がした。
デックアールヴさん達の呻き声と、スクォンクさん達の泣き声が聞こえる。私は微かな目眩を覚え、反射的にりず君を支えにしてしまった。
「大丈夫じゃねぇな、氷雨、無理すんな」
「……今は、無理をすべき時だと思うんだよね」
そう笑うと、りず君に「てめぇはぁ……」と凄まれてしまった。
ごめんね。でもね、我儘をどうか許してね。
思いながら笑い続ければ、りず君はため息を吐いていた。
「地面を柔らかくするヒュオー」
――気を抜いたつもりは無い。
それでもそれは思っていただけで、気は抜けていたんだろう。
背後の地面が突然陥没し、振り向けば赤いスカーフが目に入る。
彼の両手には小さなつるはしのような道具が握られていて、鋭い先端が光を反射した。
「確認完了、問題なし」
彼は勢いよくヒュオーと呼んだ道具を私に向かって投げてくる。
それをりず君で弾き落とすと、その間に彼――ベレットさんは私の懐に入ってきた。
速い、異常、足、何か履いて、ッ
「一蹴りで相手の懐に潜り込むコトス」
りず君をナイフにした瞬間、私の鳩尾にベレットさんの拳が添えられた。
ヤバ、何か着けッ
「衝撃波を出すラグス」
私の腹部に強い衝撃が走り、足が地面を離れる。
そのまま体は後ろへと弾き飛ばされ、背中がスクォンクさんの家の壁に激突した。
体の節々を痛いという感覚が駆け抜けて、口から変な空気が漏れる。膝から地面へ崩れ落ちれば体は前に倒れ込んだ。
手からりず君が零れ落ち、肩かららず君が落ちてしまう。
目の縁には熱いものが溜まり、私は痛みを訴える腹部を両腕で押さえ込んだ。
痛い、痛い、痛いッなんだよこれ。くそ、くそ、息が出来ない、苦しいッ
激しい呼吸音が遠くでしており、それが自分の口から漏れているのだと気づくのには時間がかかった気がした。
耳鳴りがして手足に力が入らない。
りず君とらず君は無事、ッ、足、動けッ
「確認完了、問題なし」
また声がする。
私は地面に擦り付けていた顔を何とか上げて前を見る。ベレットさんは手袋のようなものを外して横へと投げ捨てていた。
それ、商品じゃねぇのかよ。って、今は、関係ないだろ。
何とか立ち上がろうとするが、手足に上手く力が入らず這いつくばってしまう。
「さぁ立て我が同胞達!! 我らの宿命を果たしてみせろ!!」
低く威厳ある声が周囲に響き、他のデックアールヴさん達が起きる音がする。武器を手に持ってお互いを鼓舞するように雄叫びを上げて。
駄目だ、駄目だッ、立て自分ッ
思うのに、頭が痛くて呼吸がおかしい。焦れば焦るほど自分の体が言うことを聞かなくなっていくようで、それが焦りをより増長させる。
顔を上げて、針鼠に戻っているりず君と震えるらず君を抱き寄せる。「氷雨!」とりず君の切羽詰まった声がして、私は笑うんだ。
「あぁ、笑うのか、戦士」
ベレットさんの声がする。顔を上げれば、自分に向いた武器の数々に現実逃避がしたくなった。
立て、立てよ、これは、夢じゃない。
りず君、何か、防御、ヤバい
死ぬ
発砲音が
私の鼓膜はその衝撃に揺れ、体は勢いよく抱き上げられていた。
「ッ、むすび、め、さッ」
「舌噛むよッ」
無表情の結目さんの切羽詰まった声がする。
私は口を結んで、結目さんに横抱きにされたままデックアールヴさん達を見る。構えられた武器は容赦無く結目さんを狙い、私はりず君とらず君を抱き締めた。
頭の上で結目さんが舌打ちするのが聞こえて、肩を竦めてしまう。
それでも、もう大丈夫だから下ろしてくださいなんて嘘はつけなかった。今下ろされたら確実に狙い撃ちにされる自信がある。頭が痛いしお腹も痛いし手足の震えは止まらないし。
あぁ、無力だ。
思った時「おつかれ」なんて言う声が降ってきて。
上を見ると、未だに無表情の結目さんがデックアールヴさん達の方を向いていた。
銃弾や矢を躱して、彼の風が不規則になる。
結目さんの呼吸が安定しない。
「その顔、なんか思い詰めてるっぽいね。俺の荷物になってるか心配してるんでしょ。そんな不安捨てちゃいな。俺は本当に荷物だと思ったら容赦なく捨てるから」
結目さんが飛んできた大きなネットを躱す。洞窟の壁には幾つもの武器が突き刺さる。
速度を緩めない結目さんの首筋を汗が伝い、奥歯を噛んでいる音が聞こえた。
「鬱陶しいなぁ……あの武器共」
結目さんが銃弾を躱した時、大きく体が下がる。
青白い結目さんの顔。体感系の力を詳しくは知らないが、使い過ぎれば消耗が激しいとは聞いた。
矢なら彼の風で防げるが銃弾は違う。夜来さんの時同様、結目さんが追い切れないものを止めることは不可能だ。
目の前で赤が弾ける。
結目さんの肩。
銃弾。
「ッ、イッタいなぁッ!」
「らず君!!」
結目さんの肩に飛び乗ったらず君が淡く輝き、私は結目さんの出血を押さえる。生暖かい血は湿っていて、結目さんの口角は上がった。彼の目がデックアールヴさんから外れてる。
「集まった」
彼は、自分の傷をもう意識してない。
足を洞窟の壁に着いて勢いよく蹴り出し、突風と共に体に負荷がかかる。
デックアールヴさん達の頭上を超えて風に乗り、結目さんは広場へと着地した。
砂煙が上がり私も足を着く。
後ろを振り返ると、息を切らせた闇雲君とルタさんと、泣き続けるスクォンクさん達が集まっていた。
「ッ、怪我!! ッ!?」
闇雲君が、結目さんの肩や私の腕を見て顔色を悪くする。私は笑いながら血に濡れた手を擦り合わせ、結目さんの口角も上がっていた。
「騒ぐなよ雛鳥、この程度」
「ありがとうございました、闇雲君」
「どういうことだよッ、説明、しろよ!」
泣きそうな声で訴えられる。私は苦笑してしまい、らず君は光り続け、結目さんは肩から流れた血を拭う。
砂煙の向こうに集まったデックアールヴさん達。彼らの武器は私達に向き、背後のスクォンクさん達が息を詰めるのが聞こえた。
ベレットさんが私達に言う。
「戦士達よ! 今ならばまだお前達で最終確認するのを止めてもいい! ここから立ち去り、スクォンク達を我らに差し出すのならばな!!」
スクォンクさん達の泣き声が震えている。ベレットさんの目は誰よりも強く、威圧が肌を震わせてきた。
その使命に燃えた目は、誰を見ているのか。
貴方が本当にしたいことは、何なのか。
「なん、で、この子達を、攻撃、するんだよ!!」
闇雲君が結目さんと私の前に飛び出してくる。ルタさんは闇雲君の肩で翼を広げていて、まるで盾のようだ。
闇雲君を見る。
彼の背中は、震えていた。
「この子達、何か、したのかよ!」
切なる声で、闇雲君はデックアールヴさん達に訴える。
スクォンクさん達を見ると、彼らは目を見開いて涙を零していた。
「何もしないからだ」
低い声がする。
それはベレットさんの声。
闇雲君の腕が震えて、鋭い刃のような声が飛んできた。
「そいつらは泣くだけだ! 泣いて泣いて、その生に意味などない!! 泣いて終わる人生ならば、我らの使命を果たす糧として何が悪い!」
泣き声がする。スクォンクさん達の泣き声だ。
闇雲君の手が握り締められ、震えてる。
「泣き続けるスクォンクは、傷つく仲間を庇う勇気もない弱者でしかない! 自分を持たず、宿命に縛られた奴らを使って何が悪い!! 我らの宿命は武器の最終確認者であることッ、その宿命を果たす為、役に立たない他者を使って悪いことなどあるものかッ! 俺達は、そいつらに、意味を与えてやったのだ!! 生きる意味を!!」
「誰かの意味を、お前が決めんなよ!!」
闇雲君が、叫ぶから。
スクォンクさん達の泣き声が止むんだよ。
「自分の人生は自分で決める!! 誰かが口出ししていい訳ねぇんだ!! 押し付けて、縛っていい訳がねぇんだ!! それに気づかねぇ馬鹿共は、さっさと失せろよ鬱陶しい!!」
「ッ、タガトフルムの戦士が何様だ! 貴様は死者を見たからそいつらに肩入れするのだろう!! その上辺だけの優しさに溺れて、弱者であるにも関わらず、意気がる真似をするんじゃない!!」
「泣いてる誰かを殺すのが強者なら、俺は弱者のままでいいッ」
闇雲君の手が握り締められる。痛い程に力の篭った拳は、彼自身の太股を殴っていた。
「俺は、救えなかったッ、もっと早く決断したら、逃げなかったら、足踏みしなかったら、今も生きていてくれたかもしれない、命をッ」
彼の言葉は震えている。何度も太股を殴った闇雲君は、肩で呼吸をして、それでも前を向いていた。
「だからもう、逃げねぇよ!! こんな思いは、これ以上したくない!!」
「ッそこを退け!! 祭壇を建てて、生贄を集めるお前達の使命を放棄して、何故我らの邪魔をするんだ、戦士!!」
「使命を果たしに来たんだよ」
結目さんがそう言って、闇雲君の隣に並ぶ。私も歩き出て、闇雲君の背中に軽く手の甲を添えた。そうすれば、彼の震えは止まるから。
涙が薄く膜を張っていた目が私を見てくる。私は微笑んで「ありがとう」と伝えるんだ。
さぁ、前を向け。
悪を連れて行く為に。
「俺達は、悪を連れて行く! シュスの誰もが悪だと言い、俺達の尺度で測った時も悪だと判断したそいつをね!!」
「スクォンクさん!!」
結目さんの声が洞窟に反響し、私もお腹の底から声を出す。
傷ついた腕が痛い。そんなこと、吹き飛ばせ。
「貴方達は、誰を悪だと思いますか!!」
スクォンク・シュス・アインスに住む貴方達が悪だと言う、その人を。
「誰を連れてって欲しい!! 虐げられて、傷つけられて、殺されて!! それでもお前達は誰も悪くないって言うのか! 自分達が悪いって言い張るか!?」
結目さんの顔から笑顔が消えて、彼の声が強く響く。私の肌には鳥肌が立ち、結目さんは言っていた。
「言えよ!! お前達の本心を!! 見せてみろ!! 弱虫なりの抗いを!!」
立ち上がる音がする。
見ると、スクォンクさん達が立ち上がって、泣きながらも、前を向いていた。
「黙れ戦士!!」
弓がしなる音。
銃が構えられる。
私はりず君をスクトゥムへと変えて、結目さんが空気を凝縮させたような風の渦を作る。
これで、守り、きれるかッ
歯を食いしばった時、上空にある緋色の翼を私は見た。
「ほ、」
軽い声と相反する、雷が落ちたのではないかと錯覚する程の衝撃が洞窟内に広がる。
激しい落下音と舞い上がる砂煙。それに怯えることなく発砲音は響き、私は目を見開いてしまった。
銃弾が硬いものに当たり阻まれる音が響く。
ぶわりと煙が払われたように晴れたそこには、頼れる背中がいてくれた。
「細流さん!」
「あぁ……遅刻、した、か?」
「いいや、ドンピシャ」
結目さんが笑って、細流さんの前に広がっていた薄緑色の盾が割れてしまう。
その破片は地面に落ちる前に消えて、細流さんの右腕には緑色の鉱石を嵌めたブレスレットがあった。鉱石の輝きが無くなって灰色に変わり、ヒビが入る。
「氷雨さん、出来ました。大丈夫です」
「ひぃちゃん、ありがとう」
ひぃちゃんが私の肩へと戻って頭を下げてくれる。優しい目は私の傷を見て揺れていたが、口には出さないでくれた。
ありがとう。その気遣いが、私を強くしてくれる。
「な、何故……お前がそれを……」
ベレットさんの声がする。信じられないものを見る目でベレットさんが見ているのは、細流さんだった。
「ッ、何故なんだ!!」
「教えてくださいスクォンクさん!! 貴方達が思う悪を!!」
再び凶器が向けられる。
それよりも早く、私はスクォンクさん達の答えを待っていた。
「ベレット!!」
声がする。一人の声。
それは徐々に増えていき、デックアールヴさん達の狼狽える様は悪化した。
ベレットさんの足が、微かに後退する。
「ベレット!!」
「ベレット、なんだッ」
「嫌だと言ったッ、死にたくないと、傷つきたくないと、言ったんだッ」
「それでも、武器を向けるからッ……だから、だから!!」
「悪は……悪はぁ……!!」
――ベレットなんだ……ッ
「だ、そうだよ」
結目さんが笑って、ひぃちゃんが私を掴んでくれる。結目さんは突風と共にベレットさんの後ろに回り、妖精さんは反応しきれていなかった。
結目さんに銃口や矢が向けられるから私はその間に入り、りず君にスクトゥムになってもらう。絶対に貫通する銃弾なんて無いことを祈ってッ
「攻撃したらこいつをこの場で殺す」
私の後ろで風が舞う。デックアールヴさん達も怯んでいて、見ると、竜巻に拘束されたベレットさんがいた。
結目さんは楽しそうに笑っていて、血走ったベレットさんの目と目が合った。
「そんな……」
「そんな、ベレットさん……」
「何故、何故ベレットさんなんだ……」
デックアールヴさん達が武器を落とし、消えそうな声で聞いてくる。膝から崩れ落ちる人や頭を抱えた人もいた。
りず君は針鼠に戻ってくれて、私は彼をらず君と一緒に肩に乗せた。ひぃちゃんは私を地面に下ろしてくれる。
「その人は悪ではない!!」
「俺でいい! 俺を連れて行ってくれ!!」
「いいや! 俺だ!」
「俺でいい!!」
デックアールヴさん達が口々に叫んで私の肌を震わせてくる。私の視界には手を振り上げた結目さんが映って、スクォンクさん達の声が上がった。
「彼は私達を、実験台に、してッ」
「何人もの仲間を、無抵抗な彼らを、殺してきた!」
「発案者は、ベレットだ!」
「ベレットが、私達の仲間を……奪ったんだッ!!」
スクォンクさん達はそう泣きながら叫んで、闇雲君の腕が翼に変わっている。彼は大きな翼を広げていた。
細流さんは首をゆったり傾けて、デックアールヴさん達の方を向いている。
「ベレットさんは良い人だ!」
「俺達デックアールヴに武器を作らせるよう、ドヴェルグ達に交渉を何度もしてくれた!」
「俺達を導いてくれた!」
「その人がいなくては、デックアールヴは駄目になってしまう!!」
「だから、連れて行かないでくれ!!」
誰かの先導者は誰かの敵で、誰かの善は誰かの悪。
肩で痛がったらず君の額を撫でて、私は懇願するデックアールヴさん達を見下ろした。
「その良い人の発案なら、アンタらはスクォンクを殺すわけだ」
結目さんの声がする。
竜巻でベレットさんを締め上げた彼を振り返ってみると、冷えた瞳で笑うチグハグさんがいた。
デックアールヴさん達が黙ってしまう。闇雲君と細流さんの向こうで泣きじゃくるスクォンクさん達は、それでも逸らすことなくベレットさんを見つめていた。
「鉄仮面、ポレヴィークのシュスはどうだった?」
「あぁ、人数は、一人、減って、いた。武器も、色々、あった、ぞ。斧に、鈍器、に、この盾も、そうだ」
細流さんはそう答えて右腕を見せてくれる。彼は「持って、行って、いいと、言われた」と、もう機能しそうにない武具を撫でていた。
結目さんは目を細める。私はベレットさんを見てから、項垂れているデックアールヴさん達に視線を戻した。
「ねぇ、あんたらは何で農具以外の武器をポレヴィーク・シュス・ツェーンに渡してたの?」
結目さんが笑いながら聞いている。
「デックアールヴ達は、本当は何を望んだの?」
デックアールヴさん達は顔を背ける。結目さんはベレットさんを竜巻で締め上げて、ベレットさんからは呻き声が上がった。
それにデックアールヴさん達は慌てて、それでも答えようとはしない。
私は目を細めてから、何かを置く音がした洞窟の出入口に目を向けた。
そこには楠さんがいて。
彼女は大きな機械を、ラートライに乗せていた。
「準備、出来たわよ」
私はその声を聞いて、ベレットさんへと視線を向けた。
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