第40話 返事

 

 ……ポカポカするなぁ。


 現在時刻十二時三十五分。場所はタガトフルム、高校体育館裏。隣には楠さんが座っていて、私達は揃ってお弁当を食べていた。


「楠さんの好きな食べ物は!」


「健康にいいもの」


「真面目!! じゃぁ嫌いな食べ物!」


「スナック菓子かしらね」


「えぇ!? すっごく美味しいのに!」


「全然食べないの?」


「一年に二、三回は食べるわよ」


「「それだけかぁ〜」」


 二人という訳では無いけどね。


 楠さんがお昼を誘ってくれた瞬間、飛びついてこられた小野宮さんと、ご一緒したいと言ってくれた湯水さん。楠さんと私は一瞬顔を見合わせてから頷いて、四人でお昼ご飯中だ。


 小野宮さんと湯水さんは「楠さんと話す機会が余りないから」ということで、現在質問攻めをしている真っ最中である。


 私は和やかな光景を見ながら白米を口に運んでいた。


 寝不足による若干の体調不良のせいか、全くお腹が空かないこの頃。今日はお母さん夕方に帰ってご飯してくれるらしいし、帰ったら直ぐに仮眠とろう。


「好きな動物!!」


「特にないわ」


「スポーツとかするの?」


「適度にね」


「ほぇ~、あ! 誕生日! 誕生日はいつ!?」


「十一月六日よ」


「へぇ~! 覚えた!! お祝いするね!!」


「だね。あ、ごめん、私今日部活のミーティングが昼休みあるんだわ。先抜けるねー」


「はい、お疲れ様です湯水さん」


「お疲れ様」


「いってらっしゃ〜い」


「なずなも委員会あるんでしょ! はい! お昼詰め込んで行くよ!!」


「うえぇぇぇ何で今日なのぉぉぉ」


 お弁当をテキパキと片付けて駆けた湯水さんと、引き摺られるように消えてしまった小野宮さん。二人がいなくなった後には、体育館でボールが弾む音と笑い声が木霊こだました。


「……台風だったわね」


「……それがあの二人らしいと言えば、らしいんだと思うんです」


 息をつきながらお茶を飲む楠さん。私は苦笑してしまい、楠さんの誕生日を記憶に刻みつけた。


 お祝いしたいな。いや、十一月まで生きることがまず目標か。


「仲がいいわよね、凩さんとあの二人」


「……良くしてくださるので。小野宮さんも、湯水さんも。私には勿体無い程に」


 私には勿体無い人達。


 明るくて、優しくて、私に声をかけてくれる。その優しさが時々眩し過ぎて、私は自分が焼かれてしまう気がするのだ。


 太陽に近づき過ぎたイカロスは、翼が燃えて海へと落ちてしまった。


 私もそうなってしまいそうで、だから「小野宮さん」「湯水さん」から先へ行けないのだ。


 ふと額に楠さんの手が近づいてくる。それが確認出来た瞬間、痛みが走って肩を竦めてしまった。


 額を押さえていれば楠さんが「それで」と私達の本題を提示してくる。……なんで額を弾かれたのか。デコピンってやつだ。


「昨日の調査結果はどうだったのかしら?」


 ――調査結果


 それは昨日私が結目さんに頼まれた、と言うか指示された情報を調べた結果のこと。


 その為に処刑場だと思われる場所を発見した後、私はポレヴィーク・シュス・ツェーンの書庫に篭っていたのだ。


 私が調べるように言われたのは〈断罪の始まり〉


 何も言わない記録係さんの後ろに失礼ながら回り込ませてもらい、筆記内容をまずは見た。


 そこには作物の実り方や土の様子、今日の体調不良者やポレヴィーク以外の来訪者と、事細かに書かれていた。


 肥料の具合も書かれており、量と――誰が肥料になったかも書かれていた。


 残念なことに、私の仮定は当たっていたのだ。


 そんなことに落胆する間もなく、私は他の記録係さんが入っていく建物を見つけ、壁一面に並べられた資料群に目眩を覚えた。


 一応ポレヴィークさんに「読んでもいいですか」と確認して、無言で頷いてくれてから探し始めましたよ。ありがとうございます。


 それから見られる所までひぃちゃん達と手分けして読み進めて、何とか強制帰還させられる前には目的の情報を探し当てた。


 探し出せなかったらどうなることかと言う追い込みの元、果てしない集中力で漁り尽くした。勿論片付けも忘れずに。


 屋根を突き抜けて黒い手が伸びてきて、私も屋根をすり抜けて空へ引きずりこまれた時は心臓吐き出すかと思ったっけな。


 私は走馬灯のように昨日の資料地獄を思い出し、楠さんに微笑んだ。


「断罪の始まりは、六年前でした」


 そこから私は、知った情報を話し続けた。


 まずポレヴィーク・シュス・ツェーンはその頃、不作に悩んでいたということ。様々な肥料を試し、水を変え、試行錯誤するが思うようには改善せず、ポレヴィークさん達は使命を果たせない自分達に不安を覚えていたと記録にはあった。


 そんなある日、一人のポレヴィークさんが農具で怪我をしたという。そして、怪我により舞った体の一部を被った土の部分だけ作物がより良く育ち始めたのだ。


 それを解決策として見出したポレヴィークさん達は、自分達の体の一部を磨り潰して撒くようになってしまったそうだ。


 そうすれば使命を果たすことが出来るから。


 幸か不幸かポレヴィークさん達には弱くも再生能力があった為、一部分程度の欠損なら治せたらしい。


 しかし、体の一部を撒いてしまうと一時的に動きが鈍くなり、農作業に影響が出てしまう。それに彼らはまた悩み、解決策を出したのは一人のデックアールヴさんだった。


「デックアールヴ?」


 楠さんが微かにいぶかしんだ顔をする。私は頷いて髪を引いた。


「デックアールヴさん達は昔から、ドヴェルグの鉱山で作られた農耕具を定期的にポレヴィークさん達にお渡ししていたんです。出来た作物と交換で」


 私の頭には昨日見た六つのうすが思い浮かぶ。臼が作られたのは――ドヴェルグの鉱山だった。


「その記録があったって言う事ね」


「はい。ポレヴィークさん達は畑の守護者。畑に関係することは細かく記録していてくれたんです。農耕具が何処で作られるかも、いつ何を入れて、お礼に何の作物を与えたかも、全て」


「その臼はなんの為に?」


「……細かくする為です。ポレヴィークさん達が持っていた穀類を磨り潰す臼では、彼らの硬い体を肥料にするのは大変だった。だから特注したんです。体を細かく肥料に出来る臼を」


「ドヴェルグが了承したの? その注文を」


 楠さんが自分の掌を撫でながら聞いてくる。私は自分のお弁当箱を見て目を細めた。それから蓋を閉めて、首を横に振る。


「特注の臼を作ればいいと提案したのも、注文を受けたのも、一人のデックアールヴさんです。そして臼を作ったのも、断罪制度を提案したのも彼からだそうです」


 私はお弁当を仕舞いお茶を飲む。それから楠さんに視線を戻し、茶色い瞳を見つめた。


「彼の名前はベレットさん。デックアールヴさん達の仕切り役である証、赤いスカーフを巻くことを許された方だとか……。私が調べることが出来たのはここまでです。どうしてベレットさんがそんな提案をしたかは分からないんですが……」


 そこまでは報告し終えて会釈する。楠さんは「そう」と呟いてから、私に会釈を返してくれた。


「ありがとう、お疲れ様」


「ぁ、いえ、ぁ、ありがとうございます」


 慌てて頭を下げ返し、楠さんに「低姿勢ね」とため息をつかれてしまう。すみません。


 私はどう答えるべきか分からなくて苦笑してしまう。そうしたら軽く額を弾かれて「ぅえ」と変な声が出てしまった。


「そんな低姿勢やめなさい。と言っても、止められないんでしょうね」


「……ははは」


 笑って濁しつつ髪を引く。


 すると楠さんは「次は私ね」と肩を竦めていた。


 私は再度姿勢を正す。楠さんが調べていたのは、確か「ドヴェルグとデックアールヴ」について。


 超ざっくりで、結目さんが「じゃ、ドヴェルグのシュスまで戻ってよ」と上から目線で指示した光景が思い出れる。


 楠さんとの極寒ごっかん罵倒ばとうバトルが数分開幕されたが、結目さんが風で捕まえていたデックアールヴさんとラートライが引き摺り出されたことにより、楠さんが折れたようだった。


 というか、私達の生贄の条件がなければあのデックアールヴさんを生贄に出来たよな。心苦しいから絶対しないけど。


 ――三分で戻りなさい


 ――無茶言うんじゃねぇよ戦士ぃぃぃ


 楠さんがデックアールヴさんを締め上げていた光景が思い出される。楠さんと細流さんに処刑場や仮定の話をしたら直ぐに調査に賛同してくれたものの、彼女的に結目さんの提案というのが嫌だったらしい。


 ――エゴの駒にされるのも、ポレヴィークの野原まで来た意味も無くされるのが癪だけど仕方ないわ。やるべきことはやってあげる。


 そう言いながら、颯爽とラートライに乗って別行動となった楠さんはそれはそれは凛々しかった。


「私が確認出来たのは、デックアールヴはドヴェルグと宿命も使命も違うということよ」


「え、使命も違うんですか?」


 私は驚いて目を丸くしてしまう。楠さんは頷きながらお弁当を仕舞っていた。


 デックアールヴさんの宿命は、ドヴェルグさんが作った武器の最終確認者であること。デックアールヴさんは不器用で武器が作れないから。そして彼らの使命は、出来上がった武器を求めた者へ確実に渡すこと。


 楠さんは私を見て「もう一つあったのよ、使命は」と言ってくれた。


「デックアールヴの使命は出来上がった武器を求めた者へ確実に渡すこと。でも、渡した武器が納得されなかった場合の使命も、彼らは背負っていたわ」


「納得されなかった場合?」


 楠さんは頷いてくれる。彼女は自分の掌を見て、微かに眉間に皺を寄せた。


「武器に納得されなかった場合、デックアールヴは注文者に他のドヴェルグを紹介するの。そして、求める武器を作れなかったドヴェルグを、使命を果たせなかった者として断罪する」


 ――断罪


 私の思考がはまって、形を成していく。楠さんは「言ってたわ」と続けた。


「昨日私の注文を受けたドヴェルグが、言ってたのよ。仰せの通りに、じゃなきゃ首が飛ぶって……あれは冗談じゃなかったの。本当に飛ぶのよ、首が」


 ――使命を果たせない奴に生きる価値なし!


 アミーさんの声が回る。朝焼けの中で、日が昇りだした部屋で、彼はそう言っていた。


「凩さんの結果を聞いて分かったわ。ベレットは、ずっとそうしてきたからポレヴィークに提案したのよ。使命を果たしきれていないポレヴィークに、死んで果たせとね。果たせなければ殺してきたのだもの、アイツらは」


「じゃあ臼を作る提案をしたのは、ポレヴィークさん達に使命を果たさせる為に」


「それと同時に――自己欲を満たすためよ」


 楠さんはそう言って、昨日ラートライに乗せてくれたデックアールヴさんが言っていたことを教えてくれた。


「デックアールヴは、本当は武器が作りたいの。不器用なりにも、ドヴェルグとして。見た目や器用さが違うだけで、デックアールヴであると言うだけで「職人」ではなく「最終確認者」であることに不満があるの」


 そこまで話して楠さんと私は黙ってしまう。


 心臓が早鐘を打ち始めて、温かな気候が何故か憎たらしい。


 落ち着こう、整理しろ。


 ポレヴィークさん達は良質な作物を作りたくて、自分の体を肥料にした。けれどもそれでは動きに支障が出てしまった。


 それならばとデックアールヴさんが特注の臼を作り、ポレヴィークさん一人を肥料に出来るようにした。


 選ぶ一人は最も働いた者。宿命通りに、使命を遂行する為に。


 断罪とは、元よりデックアールヴさんが求める武器を作れなかったドヴェルグさんに行っていたこと。それをアミーさんは教えてくれなかった。いや、今はそんなことどうでもいい。


「断罪のシュスだと言い出したのは、デックアールヴ達よ」


 楠さんはそう言って、遠くではボールが体育館から飛び出す音が響いていた。


 * * *


「ただいま」


 ほとんど集中出来ずに補習を終え、何とか無事に帰宅して玄関を開ける。


「おかえり」


 普段はない、柔らかな返事に安心する。いつもは返ってこない言葉が私の心を穏やかにしてくれる。


 私は自然と笑ってしまい、扉を開けると台所にお母さんの姿があった。


 黒いセミロングの髪を一つに結った華奢きゃしゃな人。娘の私から見ても「可愛い」と思わされる人。


 お母さんは私を見ると優しく笑ってくれた。だから私も笑い返して隣に並ぶんだ。


「今日鶏肉が安かったから南蛮風にしようと思ってるけど、いいかな?」


「うん、いいよ」


 白いゴム手袋をして料理をするお母さんに頷いてみせる。ほんわかと微笑み返してくれたから「何か手伝おうか?」と聞いたけど、それには少しだけ困ったように笑われてしまった。


 あ、何か間違えた。


 緊張して、笑いながら髪を引いてしまう。お母さんは私の顔を見て、眉を下げながら笑っていた。


「休んでくれてて大丈夫よ、ありがとう。検定の補習とか大変なんじゃない?」


 お母さんは笑ってくれる。白い手袋をつけた手は一瞬だけ私の顔に伸びかけて、下ろされていった。


 あぁ、痛い。


 思って、言わないで。


 私は笑って、少しだけ後ずさった。


「……顔に出てた?」


「んー、ちょっと疲れてるかなって、感じが?」


「そっか……うん、ごめん、部屋にいるね」


 鞄を肩に掛け直す。私はそのままリビングを出ていって、自分の部屋へと足を進めた。緊張で早鐘を打つ心臓が痛くなる。


 部屋のドアを開けようと伸びた手はこわばっていて、何も間違っていなかったと自分に言い聞かせるので精一杯だ。


 息を止めそうになりながら部屋に入り、後ろ手にドアを閉める。


 それからベッドに制服のまま倒れ込み、息を吐いた。


「……なんだかなぁ……」


 鞄のファスナーが開く音を聞く。器用な子達。見るとりず君、らず君、ひぃちゃんが専用の鞄から顔を出していた。


「……氷雨、アミー呼ぶか?」


「……うん」


 鍵を持ってきてくれたりず君に手を伸ばして、宝石を三回叩く。そうすればアミーさんは直ぐに現れてくれて、私は体を無理矢理起こした。


「やっほー氷雨ちゃん!! なんだか元気が無いねー大丈夫!?」


「大丈夫です。アミーさん、その、いくつか質問があるんですけどいいですか?」


「いいよん何でも聞いちゃって! 何かな何かな~?」


 陽気に手を振りながら隣に腰掛けてくれたアミーさん。私の膝にはひぃちゃん達が来てくれて、自然とお姉さんの鱗を撫でていた。


「どうしてデックアールヴさんの使命を……全部教えて下さらなかったんですか?」


「あぁ、それに関しては聞かれなかったから言わなかったって言うか、まぁ言わなくてもいいかなーっていう自己判断的なあれですよ!!」


「職務怠慢じゃボケェ!!」


 アミーさんらしい答えが返ってきて、りず君の長くなった前足が兎さんの首を締め上げる。私の喉が鳴って、アミーさんは「ははは! りず君苦しいぜ!!」と全く苦しがっていない声で笑っていた。


「り、りず君、ストップ、ストップしよう、ね?」


「たく……」


 アミーさんがタップを始めてしまった為、急いでりず君に止まってもらう。小さな彼は前足を戻してくれて「ホントにこの兵隊は」と文句を呟き始めてしまった。


 あぁ、ごめんりず君。アミーさん、すみません。


 アミーさんは笑って「だってさぁ」と明るく言っていた。


「りず君がいる氷雨ちゃんがドヴェルグの鉱山に行く必要なんてないから、省略してもいいかなーって思っちゃうよね!」


「あー……まぁ、そうですよね」


 肩を竦めて笑い、私はりず君の額を撫でる。


 りず君と言う強固な武器が既にある私が、武器を求める必要性は確かにない。だからアミーさんも必要最低限のことだけ教えてくれていたんだろう。


 アミーさんの言葉を受け止めて、私は頷く。青い兎さんは楽しそうに言葉を続けていた。


「さて、それじゃぁ氷雨ちゃんの次の質問を予想してあげよう! ズバリ! 何故夜来無月君について黙っていたのか!! どうして負けて死んだ後のことを黙っていたのか!! 何でドヴェルグの鉱山のシュスが断罪のシュスと言われてないのか! でしょ!」


 指を三本立てて小首を傾げるアミーさん。私は彼の指先を順に見てから、全てを見透かされていることに苦笑してしまった。


「当たり、です」


「よしよし! やっぱりね〜!! ではでは答えてあげましょー!!」


 私の頭を、指を立てていない方の手で撫でてくれたアミーさん。彼の大きな手は髪を微かに掻き混ぜて、私は肩を竦めてしまうんです。


「夜来君と死んだ後についてはやっぱり僕の独断さ! 氷雨ちゃんはモーラの孤島には行かないと思ったし、死後を考える意味なんてないでしょ? だから言わなかったんだー。そして、ドヴェルグとデックアールヴの間の断罪制度だけど、あれって結構秘密裏なことなんだよ? 普通の住人は知らないことなのさ。だから無茶な注文も出来るってやつ!! みんな知らないから、断罪のシュスって言われてないだーけ」


 音符でも語尾につきそうな言い方で教えてくれたアミーさん。私の頭を撫でる彼の手はとても優しく、髪をいてくれた。


 私は少し目を伏せてから微笑んだ。


 理解は出来た。彼は彼なりに、私を考えて取捨選択をしただけだ。そして、デックアールヴさん達の断罪は普通は知られないこと。私達が知ろうとしたから知ってしまったことなんだ。


「ありがとうございます」


 お礼を言う。すると青い兎さんは「いえいえ、それにしても!」と言葉を続けていた。


「デックアールヴとポレヴィークの関係に気づくなんて、流石だね! だけど同時にどん詰まり!! 断罪のシュスをやってるポレヴィーク・シュス・ツェーンでは皆が皆、宿命を果たせる断罪に大賛成!! デックアールヴ達はポレヴィークの宿命を果たす手伝いが出来て大満足!! あれれ? ここの何処に悪がいるのかなー?」


 白い手袋をした手が伸びて私の鼻先を軽く叩く。私は口角を釣り上げたまま視線を下げて、曖昧に首を傾げてしまった。


「WinWinの関係に水を差す? 氷雨ちゃん」


 言っている。アミーさんは遠回しに、これ以上深入りするなって。


 ポレヴィークさん達の断罪はある種の名誉だ。その体全てを使って宿命を果たせるのだから。


 けど、デックアールヴさん達はどうだろう。分からない。彼らについてまだ知らないことが有りすぎる。


 私は視線を上げて、青い兎の被り物で目を止めた。


「……ベレットさんがポレヴィークさん達に断罪を持ちかけたことを、ドヴェルグさん達はご存知なのでしょうか」


 夕焼けが部屋を染める。もう直ぐ沈んでなくなるその色は、兎さんの顔の凹凸を濃厚の浮かび上がらせていた。私はらず君の額に指を置く。


 アミーさんは答えてくれた。


「いいや、知らないよ」


 何でも知ってる兵隊さんは、私に関係ないと判断されたことは話さない。


 それでも、教えてくれることに嘘はない。


 そう信じていたいから。


 私は微笑んで「ありがとうございます」と伝えるんだ。

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