第13話 証言収集開始

 一華の提案で、二人してテラスに座っていれば、生徒が必ずやってくる。と言った通り、珍しい同席に女子大生がやってくる。

「なんで、二人でいるの?」

 と聞かれると「笠田先生の事件で知り合って、まぁ、今回も発見しちゃったんでね、二人がそろうと、何か起きる。って小林君に言われて実験中」と答えた。

 ほとんどの女子が笑い、茶化し、そして立ち去った。

 数名の女子がやって来て、同じゼミだったとか、かわいそうだとか、恨まれるような子ではないとか、一通り聞いたようなことを話して立ち去った。

 その中で、いったんは立ち去ったが、数分後に戻ってきた生徒がいた。手にはコンビニ―校内にコンビニが入っている―のカップコーヒーを手にしていた。二つ。

「先生は、甘党だって聞いたけど」

 と言って、ホットコーヒーを置いて、ポケットに入れてきたスティックシュガー十本ほどと、ポーションが四つ転がり出た。

 一華は眉をひそめた。

「あのぉ。佐竹先生は?」

「授業に行った。これを受け取っても、あなたの点には加算されないよ?」

「大丈夫、点数を、380円で買えるとは思ってません」

「そうか。ではいただく」

 一華はそう言ってカップの蓋を開け、砂糖を四本入れ、ポーションを三つ入れた。

「甘くなりますよ」

「寒いんだよ」

「中に入ればいいのに」

 一華は返事をしないでコーヒーをかき混ぜ、湯気の立つコーヒーをすすった。

「あったかぁい」

 一華の言葉に彼女は苦笑した。

「それで、何の用?」

 一華の言葉に彼女は唇をかみしめ、

「さっき、ここに来た一団の中に居たんですけど」

「居たねぇ」

 彼女は頷き、「私、自然科学科の三回生、竹田 加奈って言います。田上 利子とは天文研究部で一緒でした」

「自然科学科なんてあるんだ。へぇ。天文部? いろいろあるんだねぇ」

 加奈が苦笑いを浮かべる。

「それで?」一華が話を進めるよう促す。

 加奈は大きく息を吐き出し、少し考えるように眼をそむけた。

「知り合いが亡くなってショックを受けた。助けてほしいのなら、カウンセラーがいるのだから、そっちに、」

「違うんです」加奈が素早く制した「違うんです」もう一度、今度は声を落として言う。

「違うんです。ショックですけど。これは、そういうのじゃなくて。だって、利子が殺される理由がないんです」

 一華はカップに口をつけたまま首を傾げた。

「利子は真面目な子でした。生物学の方向に進みたいけど、星にも興味があるから近場での観察とか研究部には行ってました。夜の活動なので、なかなか人が集まらなかったりするけど、利子と私は二回生まではほとんど出席してました。

 バイトの人には呆れられるとか言われていたけど、バイトの人にも好かれている感じだったし、……? え? バイト先ですか? 居酒屋です。すぐ近くの、っていう居酒屋。知りませんか? 揚げたこ焼き明石がおいしいんですよ。……一度、行ったけど、和気あいあいと仕事してたし、利子の友達だって解ったら、お通しおまけしてくれたし。だからいい場所ってわけではないですよ」

 子供らしい発想だ。と言わんばかりの顔を見せた一華に加奈が言う。一華は首を少し動かし、先を促した。

「えっと。……、だから、研究部にも、バイトにも、学校にだって毎日通っていたんです。休まず。だから、よく合コン開いたりしたけど、彼氏ができたとか、いい人がいた。なんて話全くなかったんです。

 お金の面ですか? べつに普通ですよ。半端な小銭があったら、出してあげるよとか、この前出してくれたから、今日は出すね。とか、そういうことをしてくれたり、バイト代入ったからって、高級バックを買ったり、なんかいきなりすごいことになったりはしなかったですよ」

「すごいこと?」

「もう辞めちゃったけど、バイト代が入ったからって、高級ブランドの服を着てきた子がいて、それまで大人しかったのに、急にそんなことするから驚いちゃって。でも辞めたんで、多分、水商売にでも行ったんだろうって噂で。仲良かったわけじゃないんで、見かけた程度ですけど。でもそんなこともなかったし」

「春の連休前の一斉に湧き出てくるあの連中のことか」

 一華の言葉に加奈は苦笑する。

「でも、利子も、あまり彼女たちのこと好きじゃなかったですね。なんであんな風に着飾るのか解らないって言ってました。

 そりゃ、男受けを狙ってよ。って言ったら、今のままを好きになれないような人とは付き合いたくないって言ってました」

「いい子だ」

「でも、そういうのは、モテない女が僻んで言う言葉だから、言っている間は彼氏なんかできないって忠告したんです」

 一華は首をすくめる。

「だから、彼氏はいなかったんですって」加奈の力説に眉を潜ませる。

「だからと言って、居ない。と断定はできないでしょう? 隠していただけかもしれないし」

「そんなことないですって。居たら、携帯とか触られたくないし、ずっと携帯してるし。バイトとか、研究部なんて絶対休むし。でも毎日来てたし。まぁ、三回生で、今頃は就活が忙しくて来なくなったけど、でも終わったら、星見に行きたいって言ってたから」

「どっち方面の就活をしていたとか、解る?」

「えっと、自然史博物館の研究員とか、あと、観光協会とか、そう言ったところです」

「協会ってことは、ガイドってこと?」

「そうですね。多分」

「就職難だからね、一芸専門者は」

 加奈も苦労中だと頷いた。行きたいところに行くには学歴が低すぎると言った。やる気だけは合っても、やはり、レベルの高いところの人を選ぶのだという。先に進める学業を選択すればよかったと言った。

「ところで、その研究部の人も、相当ショックなんだろうね?」

「そりゃぁ。だって、全員で、あのウォークラリー参加する予定だったんです。

 いつもなら、遅刻なんかしないのに、来ないし、連絡ないから、人が多すぎて、なんか困ってる人とか助けてるかもね。とか言って」

「そういうことが日常的にあったの?」

「そういうこと? ……、あぁ、人助け? そうですね、お年寄りがゆっくり横断歩道に居たら、声かけるのはさすがに恥ずかしいらしいけど、同じ速度で歩いて、車がクラクション慣らしそうになったら、車のほう睨んだりしてたし、結構そういうことはしてましたね、でも、声をかけるのは苦手だって言ってました」

「そう。それで、研究部のみんなもそう思ったんだ」

「そうですね。ありえるぅ。って……、一人、そう、一人だけ、おかしいって言ってたけど」

「何がおかしいか聞いた?」

 加奈は首を振る。

「何がおかしいんだろうかね?」

 加奈が、そんなに気になるなら、その子を呼んでくると言った。


 授業が済み、生徒が校舎から出てきた。拓郎もその流れの中で一華に近づく。

「窃盗ですね」

 拓郎は机の上にばらまかれているスティックシュガーとポーションを見て眉を顰める。

 一華はノートから目を離し、それを拓郎に差し出す。

 加奈との会話を要点をまとめて書かれていた。


竹田 加奈いわく、

 田上 利子は、生物史学に在籍し、天文研究部に入っていた。

 ぽんぽこ狸という居酒屋でバイトをしていた。バイト受けは良好

 研究部の出席率は良い。三回生になって就活のため休むことが増えた。

 進路は、自然史博物館か、観光協会を狙っていたようだが、難しいようだった。

 金銭面は一般的良識ありと思う。

 彼氏はいない。

 理由 携帯、荷物などさほど気にしない。

 男受けする服装に嫌悪を抱く。

 学校、部活、バイトを休まない。


 拓郎がノートから目を上げると、一人の生徒が近づき、頭を下げた。


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