第18話 証言6 鈴木 満里奈

 とうとう、冬休みまでのカウントダウンの紙があちこちに見られ始めた。でかでかと「5」という数字が見られる。

 それをうっとうしそうに見ながら、今日は日差しが温かいのでテラスに出ると、すでに拓郎が居て、

「一華先生、ご一緒しませんか。みんなが―風変わりな同席風景―に期待してますよ」と言って手を振った。

 一華は嫌そうに顔をゆがめ、拓郎の前に座った。

「今日は暖かい」

「ですなぁ。でも、明日から、冷え込むようですよ」

「そのようですね。生徒たちは、ホワイトクリスマスを願っているようですがね」

「そりゃ、無理でしょ、ここでは」

 と一通り会話をすると、拓郎はパソコンで何かを始め、一華は編み始めた。


 一人の女子が、田上 利子の友達らしくショックと動揺をまだ引きずり、目を赤くして近づいてきた。あまりの悲壮ぶりに、

「警察に話したほうがいいのじゃ?」

 一華がそういうと、親友だと言った鈴木 満里奈は首を振り、

「言いました。でも、本気というか、真剣に聞いてくれなくて」

「まぁ、話すと、君も気が楽になるかもしれないから、話してみたら?」

 と拓郎の優しい言葉に、満里奈はハンカチで涙を抑えてから、

「利子って、すごいまじめで。……そうなんですよ。遊ぶとか全くしない子だったんですけど、夏ぐらいに、彼氏でもできたみたいで。あ、解りません。聞いても、そういうのじゃないのよ。と笑うだけで、ずっと一緒に居たりしたので、学校の人間じゃないかもしれない。でも、同じバイトの子も、休まず来てるし。あぁ、彼女居酒屋でバイトしてたんです。男っ気があるようには見えなかったって」

「それでも、彼氏ができたっていう理由は?」

「ぼんやり考えごとするようになって、なになに? 恋煩い? って茶化したら、そういうのじゃないのよ。って、なんか、余裕かまされて。あぁ、できたんだぁって、なんだぁ、もうじゃないじゃん。って思ったけど、そのあとも別に普通で、クラブにも行くし、あ、大学の研究部クラブ。夜遊びは、もう、三回生になって進路があるからって、控えていたけど、それでも、一か月に一回は来てたし。携帯をずっといじっているようなこともないから、就職疲れなだけだろうって思ったの。そしたら、急に変わって、」

「変わった? それはいつごろ? どんな感じ?」

「それが、ハロウィンあたりだと思うんですけど、それまでそんな気配全く見せなかったのに、携帯ずっと見て、誰かとやりとして、時々涙目になるし、ぼうっとしてるし、聞いても全く教えてくれなくて。

 学園祭の一週間か、十日前、「もう、死んじゃいたい」って言いだしたんで、びっくりして、何があったのかしつこく聞いたけど、単位がぎりぎりだとか、バイトでミスして、そういうのが重なっただけって。

 でも、でも、でも。利子って成績めっちゃよくて、単位がギリなんてことは絶対にないの。もしギリだとしたら、笠田先生の嫌がらせだとしか考えられない。で、も、先生死んじゃったし。

 先生が死んだって聞いた日、利子は驚いて、その日早退して、そのあと、二日ぐらい来てはすぐに帰ったけど、しばらく休んだんですよ。気分が悪いって。

 心配したら、実は、お父さんが自殺して、それがフラッシュバックしたんだって。そんな大事なこと言ってくれたんで、じゃぁ、助けが必要な時は言ってって、解ったって。

 学園祭の一週間前にやっと出てきたときには、すごく痩せてて、事情を知らない子に、赤点ダイエット。何て笑ってて。

 学園祭の前日、利子が北舎から来るのが見えて、北舎になんて絶対用は無いから、何してたんだ? って聞いたら、笠田先生が死んだ場所、見に行ってたって。好奇心だって言ったの。でも、笑顔だったから、気にしなくて。それで、一緒に帰って、帰りにパフェ食べたいって言いだして。利子って甘いの苦手なのに珍しい。って言ったら、勉強しすぎて糖分を欲してるの。って笑ってたけど、半分以上残したんで、私が食べたけど。

 別れ際。……ありがとうね、満里奈って。いつも言う子じゃないから、気持ち悪いって、でも、でも、でも」

 満里奈は突っ伏してしまった。

「それでは、田上さんは笠田先生の事故現場に、あえて行っていたんですね?」

 満里奈は頷いた。

「その理由が、好奇心。……それは、田上さんらしい理由だと思いますか?」

「思わない。けど、でも、専攻がそうだから、ちょっと気になったぐらいなんじゃないかな。学園祭前に、なんかみんなで興味本位で行く。ってときには人が多かったから、居無くなったぐらいに見に行ったんじゃないかな」

「その見学には誘われなかった?」

「誘われても行かなかったと思うけど、誘われたことはなかった」

 一華は唸り、少し考えてから「あなたも、田上さんには彼氏はいなかったと思う?」

 満里奈は少し考え「居ない。と断定できなくて。やっぱり、あの落ち着きのなさは彼氏だと思うんですよ。彼氏が浮気するとか、そういうので、死にたいって言ったと思うんですよね。じゃないと、ずっと携帯握って、落ち着かないってことないし」

 満里奈は今どきの女子大生ってそういうものでしょ。と言った。


 田上 利子は、笠田教授が亡くなった場所に、あえて行っていた。好奇心だけか? 山形用務員が見た涙からすると、好奇心ではないだろう。だが、レイプした相手の亡くなった場所にあえて行きたいのだろうか? 事故死した笠田教授をせせら笑いに向かったのか?

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