第8話 学園祭 開幕

 毎年思うが。と切り出して、金田 一華は頬杖をついて外を見た。

 学食堂は今日はいつも以上に忙しくなる予定だ。外から来るオープンキャンパスも兼ねているので、高校生や、その親たちも来るようになっている。食堂の中はこの日のための生徒バイトとおばちゃんたちで大賑わいをしていた。

 食堂を統括している橋 一子―還暦の祝いをこの前したばかりだ。大御所俳優の橋 一夫さんのファンで、結婚して橋姓になったことで、一時違いの偶然に運命を感じている―と調理カウンターを挟んで向かい合っていた。

 頬杖をついてカウンターにもたれかかっている一華に橋おばちゃんは笑顔を見せながら、

「一華先生も参加したらいいのよ。楽しそうじゃない」

「いやぁ、いいわぁ。男子のメイド喫茶に、女子の執事喫茶ばかりらしいし、かと思えば、運動部のどっかが、筋肉体操と写生会をするとか言ってたなぁ。なんか、お祭りすぎるわ」

「若いっていいわね」

 橋おばちゃんが見本の小鉢をショーケースに並べる。

「今日はカレー定食オンリー?」

「一番手っ取り早いのよ。カレーを大量に作り、空揚げを二個添えて、サラダをつければ立派、立派」

「確かに、見た目は派手だわ」

「それより、北舎封鎖だって?」

「あの事故現場の見学とかって集まってこられても困るからだってさ。三上先生らしいでしょ。負で人を呼びたくないのさ」

「まぁ、解らなくもないわよ。理事長が奥さんに変わって、三上先生が統括責任者になってから、確かに学生は増えたからね」

 割ぽう着と、白い三角巾がよく似合うなぁ。と一華は橋おばちゃんを見る。手際よく小鉢に盛り付けて行くし、無駄な動きをしない。

「先に食べるんでしょ?」

 時計を見れば、食堂開店の十分前だが、舟木おばちゃんは一華にカレー定食を用意して差し出してくれた。


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