第7話 一週間後
笠田の自宅のPCから塗料購入の履歴と、ソーラーパネルを外す手順などを調べた痕跡が見つかった。
笠田の両親は、「ダメな子ほどかわいいものです」と言い、「でも、えらい先生になったのよ」と言ったが、学校での評判の一部を聞かせると黙った。
「時々、大金を要求するのだけど、大学が研究設備にお金を出してくれないって。論文を完成するためには、自腹を切るのは普通だ。と言うから。最高で百万円。よくあるのは十万円ぐらいでしたけど。あんまり買ってくれないので、大学に文句を言おうかというと、自分はやっかまれていて、論文を完成するのを邪魔されているんだ。だから、どうしても自力でやり遂げるんだ。というので、強い子になったと喜んでいたんです。学生の頃はいじめられていて、カツアゲとかされていたので」
母親は息子の性格について受け入れにくい様子で、だが、父親は息子の異常な行動に恐怖を感じているようなところもあった。
リストにあった女子生徒のほとんどが、授業に参加していたし、辞めた人たちもそれぞれの場所でアリバイが成立していた。一人二人、アリバイがないような気もしたが、いかんせん、現在海外に居て、その部屋で寝ていたというのだから、アリバイであろう。
事件は事故死。として決着がついた。
学園祭の準備でさらににぎやかになっていた。
論文提出の最後を飾ったのは、あの日一華の部屋に居た清水 卓人と、森本 虎郎だった。二人の論文を読み、
「いいと思う。あと十分。走れば間に合う」
と返した。
「先生が採点するんじゃないんですね?」
立川だった。今日は一人のようだった。後ろを見てから「西日、確かにまぶしいですね」と椅子に座った。
「うちの生徒なんでね、どうしても甘く採点してしまいますからね。みんな合格にしてあげたいのは、親心ですよ。でも、それでは、今後が大変になります。特に、あの二人は、卒業後、地方の博物館の学芸員の仕事が決まってるんです。単位取のために授業を受けているこの、感想文的な論文ではだめなんですよ」
「なるほど。彼らはもう就職が決まってるんですね」
「狭き門ですよ。専門すぎるし。確かに博物館とかありそうじゃないですか。というけど。そこの職員は辞めないから。延期するし。だから、若手が入れない。したがって、後継者がいない。と慌てる。あなたたちが順次辞めれば、学生が順次入っていくのだけど、自分たちだって生活があるし。と言って辞めないことを棚に上げ、しかも、高給取りですから、年功序列で。そうすると、博物館的には新人を二人居れたいけど、コスト面を考えて一人しか雇えない。こき使われるので、すぐに辞める。後継者がいない。と大学に文句を言う。悪循環もいいところですよ。しかも、ここにきて、博物館に人がいないのに運営をしている無駄を指摘され、大慌て。でも、そういうパフォーマンスができるようなら、赤字になることはないですからね。年寄りが頭をひねったところでいいことなんかありませんから」
一華は辛らつにそう言って微笑んだ。
「私だって、決まってたんですよ。それをそこのお局、今なお居るそうです。もう70超えてるんじゃないかな? その人が、若い娘が入ると、規律が乱れる。と言い出して内定が取り消されたんです。バカげてるでしょ?
でもまぁ、そのほうがよかった気はしますよ。頭に来て、あちこちに行って、そこの館長と知合い、学生を、推薦書や、大学を通さずに紹介して、
……私、主任に嫌われているって言いましたっけ? まぁ、そういう勝手をするので、嫌われるんですけどね。辞めさせたいけど、それができない。そのパイプが太いので」笑う「それに、この大学は、創始者である静内さん、今の理事長の旦那さんが考古学者で、考古学を気軽に学べる大学が少ない。って作ったんですよ。今は全国平均の授業料でしたが、以前は国立より安かったんですよ。ただ、考古学だけでは大学は成り立たず、いろんな学部をそろえて、今のような学校になったんです」
「異端児。ですか」
「かっこよく言えば、悪く言えば、捻くれてるだけですよ。授業だってできるだけしたくないし。できれば、研究していたいので」
「授業をしたがるものかと思ってましたが?」
「私は嫌い。そういうのが好きな人は居ますよ。でも、私は嫌い」
一華は笑い、立川も少しだけ笑った。
「事件解決したので、お礼に」
「よかったです。とはいえ、警察だって事故だと思って捜査していたでしょ? ただ、内情を聞き出すには、警察だし、部外者だし、と集まりにくいだけで、」
「まぁ、そうですね」
「だから、生徒たちから聞き出しやすかっただけで、私のおかげじゃないですよ。もっと言えば、佐竹先生にそれをさせれば、もっと早く解決していたかもしれませんね。彼、生徒に絶大な人気があるから」
「そうでしょうね。確かに、」
立川はそう言ったが、本心で思っていないようだった。
「まぁ、もう会うことはないでしょう」
「ええ、警察に知り合いが居るというのは、あまりいい感じはしませんからね。悪いことしていないけど」
一華が笑うと、立川は立ち上がり、会釈をして帰った。
一華は編み物の続きを始めた。冬が来る前に編みあがるのだろうか? と思いながら―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます