問いかけ(第三十一回 お題「散る」)

 初めて雲を抜けて地上を見た天使は、それ以上降下できなかった。

 叢はどす黒く変色し、その上にはおびただしい数のひとの身体が散らばっている。そのいずれもが平穏な終焉を迎えなかったのは明白だ。

 定められた務めを果たせ、と頭の中で命じる声がする。それでも、天使は動けなかった。

 鳥の声も時々吹き抜ける風の音だけがその場を満たす。耳が痛くなるほどの静寂がどのくらい続いただろうか。

 「―――ここまでしてまで、ひとの魂を浄化しなければならないのでしょうか…?」

 かろうじて絞り出した問いが、ひどく震える。

 それが、天使であった時の最後の記憶だった。

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