2016年

フリーワンライ参加作

ビスクドールの彼女(第81回 使用お題「お人形みたい」)

 彼女は本当にビスクドールのようだった。

 おじいさまの血が強く出たという、薄茶の髪と白い肌と彫りの深い顔立ちは日本人離れしている。そうした容姿に、いかにも女の子らしい服装はとても映える。過剰なくらいにフリルとレースを盛りつけた服でもうるさく感じさせないし、いっそう彼女を人形めいて見せた。彼女に言い寄るのが、彼女を隣に立っても萎縮しないだけの裏打ちのあるハイスペックな男性たちでも驚きはしないし、同性から見ても当たり前だと思えた。

 そんな彼女が怪我をした。

 慌てて病院に駆けつけると、彼女は今まで見たことがないくらいに活き活きしていた。

 「せいせいした」と、大きな包帯に片頬を覆われた痛々しい顔に、これまた見たこともないような明るい笑顔を浮かべている。それなりに傷が残るらしいのだが、顔の人形っぽさが薄まればラフな格好もしやすくなる。ラフな格好ができれば、無理に女の子らしく振る舞う必要もなくなる。フリフルが汚れるのを心配して、できなかったこともできる。それらがとにかく嬉しいというのだ。

 「なにより、こんなにざっくり顔に傷がついちゃった女を、怪我する前と同じように口説いてくる男がどれだけいるか、楽しみでね」

 誰も彼もが見た目だけで人形扱いしてくるのがすごい嫌だった、と彼女はそっと付け足した。

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