流転(第47回 使用お題「せんじょう」「逃亡」)
目を覚ました時、見張りの男はさんざんに私たちをおどしつけた。
ここは船の上だ。お前たちが眠り薬で眠っている間に、船は街からはるか遠くへ進んでいる。しかも、この海域は鮫がうようよしている。海に飛び込んでも食われるだけだ。
陸に上がったら、奴隷商人がお前たちを待っている。乾いた砂だけでできたその土地は、慣れてない者がうっかり出歩けば方向を見失って干からびる。
お前たちは、もう逃げられない。観念しろ。
私以外の女の子たちは、声を上げて泣き出した。私は肩を震わせて、終始下を向いていたから、嗚咽をこらえているように見えたと思う。
見張りの交代で船室の扉が開いた時、私は動いた。
手を縛っていた縄をひきちぎりながら全速力で扉に駆け寄り、入ってこようとした男を突き飛ばして船室から出て、甲板を目指す。
騒ぎを聞きつけた連中が私を止めにかかるけど、頭にきていて手加減のできない私に吹っ飛ばされるだけだった。
甲板に出た私は、そのまま勢いをつけて手摺を飛び越え、海に入った。
私の匂いを嗅ぎつけて集まってきた鮫たちに事情を説明し、準備ができるまで船の回りをぐるぐる回って海流を作り、船が進まないようにしてもらった。
老いた巨大海蛇にロープ代わりになってもらって、私は船を引っぱって元の街へと戻した。浅瀬で船を止め、ついてきてもらった鮫たちに見張ってもらっている間に街の警護隊を呼んできて、女の子たちは無事うちに帰り、人さらいの一味はまとめて捕まった。
その様子を海から眺めながら、私はがっくりしていた。
年を取らず、海に入ると鯨になってしまう妙ちくりんな生き物だから、今までも住まいを転々としてきた。
このあたりは気候がおだやかで、そのせいか人の気性も優しく、食べ物も美味しいから、なんとか長く住みたいと思っていたのに。
お別れするのがこんなに早くなってしまった原因をこさえた人さらいどもに、腹が立ってしょうがない。
けれど、私にできることは、もうなにもない。
私はのろのろと街から離れていった。
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