それだけでいい(第48回 使用お題「間違い」)

 私のしたことは間違っているのだろうか?

 いや。

 あの人が――私が敬愛してやまない名探偵の、推理に間違いなどあってはならない。あの人が解決した事件の犯人は、あの人が犯人だと名指しした人でなくてはならないのだ。他の「犯人」なんかありえない。

 ありえない「犯人」たちを手にかけて、あの人の名声を守った。そんなことは、口が裂けても誰にも言わない。

 いつわりの、整合性のない動機に、警察も裁判所も首をひねった。けれども、本当に犯行を行ったのは私で、動機以外の証拠は揃っているだから、有罪になるのが当たり前だ。

 もちろん、あの人は私のしていたことを知らない。私も、あの人に知らせるつもりなどない。

 あの人が、いまも名探偵と呼ばれている。それだけでいい。

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