収穫(第50回 使用お題「不揃いの豆」)
収穫した空豆の、莢(さや)から身を出す。
豆が目の前のボールにたまっていく光景と、豆独特の香りに摂食中枢が刺激される時間である。
「この作業中が一番ハラ減るよなあ」
同僚がうんざりした声を上げる。
「まったくだ。メシの時間は空豆だらけのメニュー見てうんざりして、ハラの虫がひっこんじまう」
「で、あとでハラ減って、カップラーメン作ってんのをコックに見つかって怒られるんだよな」
二人して苦笑する。
「なあ、いつまでこんな生活続くんかね」
「実験が成功するまで」
「いつ成功すんだろ」
「実験結果が規定を満たすまで」
「オレら結果確認チームじゃどうしょうもないのが、ほんとヤダ」
「実験チームが早く改良に成功すんのを流れ星に祈るくらいだな、俺たちにできるのは」
「流れ星ぃ? ありすぎて願掛けにならねえよ――ほい、オレのノルマは計測完了」
「こっちも終わった。どうだった?」
「規定値を12.382%オーバー」
「似たようなもんだ。11.018%」
「はあああ。まだ空豆生活続行かあ」
溜息をつく同僚の向こう、透明なドームの向こうに流星が幾筋も走る。
大きさが不揃いな豆の入ったボールに蓋をして、デスクから持ち上げる。モノが動く気配を察した屋内用ドローンが降下してきて、ボールをつり上げて上昇する。そのままキッチンへと飛び去って行った。今夜のメシもまた空豆フルコースだ。
莢はコップ一杯の水と一緒にコンポスターへと放り込む。その中で即座に分解され、養分の溶け出した水がチューブを伝って水耕栽培のレーンへと流される。
有益なんだか無益なんだか分からない実験だが、無駄は出ないような仕組みにはなっているのだ。
「それじゃ、帰るか」
促すより先に、同僚は出口に向かって歩き出していた。
宇宙で水耕栽培する空豆を、豆が均一に育つように品種改良する。大きさの誤差の目標は10%以下。
この実験に何の意味があるのか、空豆まみれの生活を二ヶ月送っていたら分からなくなってきた。
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