遺産(第69回 使用お題「開かない扉の壊れた鍵」)

 じいちゃんからの遺言で、その金庫はオレのところにきた。

 サビで真っ赤になった、ハガキくらいの大きさの立方体の金庫だった。その上方に、ビニールに入った鍵がガムテープでくっつけられている。こっちは時々取り替えられてたらしく、ガムテープもビニール袋もわりと新しかった。

 けれど、肝心の鍵はサビだらけで、おまけに二つに折れていて、どうやってこの金庫を開けろというのか。オレは頭を抱えた。

 とりあえず、鍵のサビを取って綺麗にして、アロンアルファでくっつけて、金庫の鍵穴に入れてみた。鍵はめでたく開いたけど、金庫の扉は開かない。蝶番に油を差してみたけど、原因はサビとかじゃないらしい。

 しょうがないので、金庫を物理的に壊して開けた。

 中身を見て、オレは小躍りした。じいちゃん、ありがとう。

 オレは金庫を新しく作って、中身をそれに移した。鍵をかけてない状態でも、どうがんばっても扉が開かないのにオレは満足する。

 じいちゃん、商売のノウハウの虎の巻をオレに回してくれてありがとう。最高の財産だよ。

 じいちゃんが何の商売してるんだかずっと謎だったんだけど、そりゃ「開けられない金庫」作ってたんじゃあ、おおっぴらに言えないよなあ。バレたら全世界の泥棒から狙われるんだから。

 でも、オレはその泥棒なんで、じいちゃんの作った金庫を壊して回らせてもらう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る