第8話『罪悪に罰。罪悪感には謝れない』

中学校へと向かう懐かしい坂道。半年だけだけれど、私はこの道を歩んだのだ。あの頃は登下校も一人だったけれど、今は隣に百夜がいてくれる。


ああ……私は百夜に依存してしまっているのかな。

そんなことを考えていると、いまさら死ぬのが惜しくなってくる気がして、その思考を頭から追いやった。


「きっつい坂道だねー…。こんなの毎朝登ってたの?」


汗で額に前髪を張り付かせながら百夜は言う。

死神も汗をかくんだな、なんてのんきに思った。


「うん、半年間だけね。あの頃は坂を登る脚がよく震えてたっけ……」


「クラスに馴染めなかったの?」


「馴染めなかったのは否定しないけど…なにより、馴染めない自分を許せなかったんだ」


「だから…学校にいけなくなったときは、罪悪感で胸が押しつぶされそうだった」


「ふーん…」


百夜は空を仰いで、さして興味もなさ気に言った。

もしかしたら、百夜の飄々とした態度は演技なのかもしれない。わけも無く、私はそう思った。


「ほら…着いたよ」


卒業してもう何年も経つというのに、校門の前に立つと脚がすくんでしまう。体育の授業中だろうか?時折校庭から聞こえる笛の音に、なんだか怯えてしまう。


「詩織。ひどい顔してるよ?」


「そんなこと……」


「まあ…とりあえず入ってみようか。透明化はしてあげるからさ」


「うん……」


駐輪場を横切り、下駄箱の脇を通り過ぎる。

教室に向かう途中、数人の生徒とすれ違ったがやはり私の姿は見えていないようだ。それでも、心臓はうるさくて仕方なかった。どうしようもなかった。


「へえー…今の中学校はエアコンなんてついてるんだね」


「百夜の頃はついてなかったの?」


「ついてなかった気がするんだけど…。あれ、おかしいな…記憶があいまいだ」


少しだけ哀しげに、彼女は困ったような笑みを浮かべた。


そのあとは職員室へと向かった。

見覚えのある先生がいた。元担任だ。

不登校の私の家に、足繁く通ってくれた。

それを思い出して、なんだか申し訳なくなって、涙がにじんだ。



そんな私の頭を、百夜は優しく撫でてくれた。

姉が妹にするように、指先で髪を梳いては抱き寄せてくれた。




その行動に私は少しだけ、違和感を覚えた。

百夜の優しさはこんなかたちだっただろうか…?


なんだかその抱擁は、わたしと百夜の別れを予感させた。……私の勘違いだと、いいのだけれど。



そうして、私たちは学校をあとにした。

最後に振り向いた校舎の姿は、やはり私の胸を締めつけた。この痛みを死ぬまで覚えていようと、なんとなく思った。

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