第6話『ギターと弦と煙草と丸太と』
「ねぇ、百夜」
「んー?」
「よかったの…?あんなことしてあとで怒られない?」
「いいんだよ。一度きりの人生…好きなことやるべきだ」
「でも百夜は死神だよね。そういえば死神に寿命とかってあるの?」
「んーとね…ないといえばないし、あるといえばある」
「なにそれ」
「ほら…死にもいろいろあるだろ?心臓が止まったときとか、人に忘れられたときとか」
「……そういうもんかな」
「そういうもんだよ。お、詩織の言ってた楽器屋さんってあれ?」
遠くに丸太づくりの小屋が見えた。行きつけの楽器屋だ。
「そうだよ。開いてるといいんだけど……。お邪魔しまーす」
「っらっしゃい」
ここの店主は風変わりな人だ。痩せこけた頬にデニム生地のエプロンをして、いつも煙草を咥えている。人通りの悪い森の麓に小屋なんか立てて、看板も出していないのだから。それでもそこらの店より、品揃えはいい。
「……と…これとこれください」
「あいよ。1500円ね」
どうやら百夜は透明化しているようだ。いくらこんな店主とはいえ、姿を見せるべきではないと踏んだのだろう。
「ありがとうございます」
「そりゃこっちの台詞だよ。こんなとこまでいつもご苦労さん」
結局切れてしまったギターの弦と真っ赤なピックを買った。涙みたいなかたちで、なんだか私にあっている気がしたのだ。
「お目当てのものは買えた?」
「うん。でも満たされちゃったから、行きたいところがなくなっちゃった」
「旅に行き先は必須じゃないよ。でも……キミのギターが聴きたいな。何処か落ち着けるとこないの?」
「じゃあ…時計台に行こう。周りにベンチがたくさんあるんだ」
「よーし、決まり。曲のリクエストをしてもいいかな?」
「私の知ってる曲なら……」
「そこまで有名じゃないからなー。えーとね、秋田ひろむって人の『少年少女』って曲なんだけど」
「あっ、それなら知ってる。amazarashiの人だよね」
「おっ、知っててよかった。趣味が合うねー」
なんて会話をしながら私たちは時計台へと赴く。
透明な死神と楽しげに会話しながら歩く私は、他人からどんな目で見られているのだろう。
そんなことを今まで気にしていなかったことにようやく驚いて、なぜだか涙が出てきた。なんでだろう。
そんな涙に気づかぬフリをしてくれる百夜の優しさが、今はあたたかかった。
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