第5話 『旅に移動はつきものだ』

さて……次はどこへ向かおうか?


そう考えていた矢先。


「おい、No.1254、そこでなにしてる」


「……!?」


突如現れた大男。

彼が見ていたのは…私ではなく。

明らかに……他者からは認識すらできないはずの……百夜だった。


「なんだ、No.514じゃないか。驚かさないでくれよ…驚くことに慣れてないんだ」


「驚くことに慣れてるやつなんているものか。それより…なぜ生者と会話をしている?それも親しげに。いや…理由はどうでもいいか」


No.514と呼ばれた男は、腕を組んでため息をついた。体格がいいだけにその姿にはなんだか迫力がある。


「はぁー、死神条項に違反している、って言いたいんだろ?」


「……自覚してやってるなら尚更罪悪だな。おとなしく本部に出頭しろ」


その男が怒気を孕んだ声で言う。私はもう百夜と旅ができないのだろうか?そんな憂鬱がお腹の脇を横切ったとき。


「逃げるよ、詩織」


「……っえ!?」


彼女は私の襟首を鷲づかみにすると、ひとっ飛びでコンビニの屋根の上に降り立った。


「おい……No.1254、なんの真似だ…?」


「いくら相手が古株だからって、死神が死神から逃げられない道理はないさ。時効って言葉、知ってる?」


「お前…!」


「詩織…ちょっとごめんよ」

百夜は男に挑戦的に言い放つと、私の額に触れた。世界がぐるりと反転して、地面から落っことされたような気分になる。


「詩織と私を透明化したよ。それも選択的にね。つまり、これでNo.514から私たちのことは見えない」


「おえっ……百夜って透明化する度にこんな気分になってるの?」


「何ごとも慣れるもんさ。ほら…早いとこここを離れよう。行きたい所はある?」


「じゃあ……楽器屋さん。ちょっと遠いけど……」


「いいよ、旅に移動は付き物だ」


にっこりと笑む彼女の静かな瞳に私はなんだか安堵を覚え、その場をあとにしたのだった。

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