ロンゴモンタヌス「あのう、勇者様……、私の犠牲はいったい……」

 気がつくと、そばにいたはずの襲われてた子が見当たらない。すでに群衆の規模となっているギャラリーの背景へ溶け込んで見失ったか。ぐるり見渡すが、あの目だつライトパープルのショートヘアはいつの間にか消えていた。


「地中に、磐石ばんじゃくに」


 凛とした響きの声が聞こえて振り返る。


大山たいざんに宿りし地の精霊よ」


 デネブだ。そうだ忘れてた。あいつ、いたんだっけ。なんかぐだぐだずっと唱えてたな、ソアラに加勢もせず。前にもこういう感じのがあったような。よく思い出せないし、まあ気のせいだろう。


「大いなる力を発現せよ」


 詠唱が最終段階に入るのか、デネブの体が謎の色あいに包まれる。土色といえばいいのだろうか、まるで足もと、道のなかからエネルギーを取り出してるような。気のせいか小刻みに地面がゆれ……てるぞ、実際にっ。


「みんな離れてっ、伏せてっ!」とソアラが叫び、自身も高く跳ね、背の低い商店の平屋根に移った。見物人たちが、わっとクモの子を散らす。カタカタがガタガタぐらいに振動が強まる。え、まさか。


「大地の怒りを呼び覚まさん。サターン!」


 ドゴッ、との重たげでひときわ大きな地響きとともに、通りのなかほど、オービンと愉快な仲間たちを中心に土が盛り上がる。

 瞬時に胸の高さまでドーム状にふくらみ、ブタゴリマッチョなガタイがボールのように浮いた。

 平べったい隆起は逃げ遅れた俺のそばまで達し、圧倒された俺はオービンたちと同様、目を丸め固まるしかなかった。

 それは長くは続かず、ほんのコンマ何秒かのことだった。

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