最弱勇者語録「自己啓発本に書いてあることは、そんな本なんか読まなくても大丈夫な奴だけ役にたつ」

 私たちなら六十以上は入ってたね、とソアラが、日に輝くそのブロンドのようにくったくなく笑う。つられて俺も、ははは、と口はしをつり上げた。引きつり気味に。

 デネブの顔色をうかがいつつ、とりあえず、すまん、と謝っておく。


 デネブは「いいえ、勇者様に責任はありません」とフォローを入れ「ただ、勇者としての威厳に欠けるふるまいはいかがなものかと」と落とす。じろと不機嫌そうな視線を浴びて、俺は首をすくめた。だからそれです、とデネブはハートの杖で俺を指す。


「もっと堂々としていただけませんか。たとえレベルが一であろうと、パーティー内でおんぶに抱っこであろうと、私たちの経験値稼ぎにも支障をきたしていようと、少々度を越して色を好まれようと、比較的、勇者とは対極に思われる言動が目だとうと、甲斐性がなかろうと、アルタイル様はこの世でただおひとり、魔王を討伐しうる勇者様なのです」


 あの、【言葉のナイフ/攻撃力:二十】で俺のガラスの心臓をザックザクえぐるのやめてもらえるかな。心のHPが〇を通り越してマイナスになってるから。


「勇者たる者、胸を張り、威厳と品格を示されるべきです」ないものは出しようがない。


「たとえ中身がともなわくても、本物のようなたちふるまいを常に意識していれば、いつしか本物に――」


 そういう精神論、いいから。その手の自己啓発本に挫折しまくってるから、俺。あと、本物のような、つーか本物の勇者だから、一応。曲がりなりにも。実態がまったくともなってねえけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る