見よ、魔王! 異世界の救世主、勇者・アルタイルの勇姿を

「でも、いいの?」


 ソアラがきょとんとした表情で言った。「なにが?」としかめっつらでデネブが聞き返すと、ロリババア系エルフは、他意のないニュートラルな口ぶりで問う。


「それだとデネブちゃんもアルくんと恋愛できなくなっちゃうよ?」

「あ、あたしは勇者様を勇者様としてお慕いしているだけで、そういった下世話な感情はっ……!」


 お慕いしているわりに凶器で脅され従わされているんだが。


「さあ、もう部屋に戻って。勇者様も」


 女児用のおもちゃみたいなハートの杖で、雑に客室のほうを指す。だからその危なっかしいものを振りまわすな。危険が危ない。誤って誤射したらどうすんだ。

 ソアラは生温かい目でくすくす笑い立ち上がった。へたり込んでいた俺も続く。


 あの瞳の生ぬるさではなく、その下の唇の温度、それを感じられそうなほど近くまで迫りながら、チャンスをのがしてしまうなんて。逃がした魚は大きいのだ。

 唇のさらに下、丸々した二匹のフグのように。さらにさらに下のアワビのように。魚というか魚介類だけど! むしろそっちは小さいほうが締まりがい――「アルくん、またなにかろくでもないこと考えてるでしょ?」


 ソアラにふふっと軽くにらまれ、視線をあさってのほうへそらす。


「魔王を討つ勇者様にあるまじきお顔はいかがなものかと」


 エルフの締まりより顔の締まりだろう、とばかりに、魔王も裸足の従者から注意を受け、俺は縮みあがった。

 見るがいい、魔王よっ。これがアンティクトンの救世主、勇者・アルタイル様の勇姿だ!


 ――俺の知ってる勇者と違う件について。

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