セのつくお友達……ぐへへ

 唇に柔らかいものが触れる代わりに、なにか硬いものがガツンと脳天を打った。


 うぎゃあぁあぁーっ、と深夜のロビーに絶叫を響かせ、俺はのたうちまわる。女の「なにやってんですか!」との怒声が降りそそぐ。

 涙目で頭を押さえ見上げた先に、【まじかる☆ステッキ】を片手に仁王立ちするデネブがいた。

 おい、そのふりふりした名前と外見からは想像のつかない凶器で殴ったのかっ。登りはじめたはてしなく遠い大人の階段を、あの漫画みたく「未完」ってデカデカとぶつ切りにしやがって、オニっ、悪魔っ、魔王っ!


 そんな文句を言うひまも与えず、魔道士だか魔法少女だかわからない従者はまくしたてる。


「目が覚めたらふたりの姿がなくなっていて、なにかあったんじゃあ、と心配になっていたら、こんなところでこんなまねを!」

「デネブちゃんが怒ることじゃないでしょ?」椅子に座ったままのソアラが、悪びれる様子もなくすまし顔で笑う。「べつに悪いことはしてないんだから」

「はあっ!? 盗っ人たけだけしい」デネブはより大声で噛みつく。「あんた、勇者様には手を出さないみたいなこと言ったでしょ」

「うん、アルくんとデネブちゃんの恋路の邪魔だてをする気はないよ」

「だから、あたしはそういうのは、ま、まったくないからっ!」

 

 えっ、まったくなの、としょぼーんの俺のことなんか気づきもせず、デネブはソアラをなじる。

 

 「恋愛うんぬんの勘違いは置いとくとして、言ってることとやってることが違うじゃない」

「これは泥棒猫な行為じゃないよ。かっこいい若い子にちょっと興味があるだけ。恋とかじゃなくてオトナの関係かな」

「なにババくさいこと言ってんのよ、実質、あたしより下のくせに。それとも実年齢どおりの中年ババアなわけ?」

「人間でいえばデネブちゃんより年下になっちゃうけど、人生経験では私のほうが豊富よ」


 おおお、やはりソアラは世にいうロリババア! これはそこそこマニアックな属性だぜ。まあ、百歳オーバーレベルの人外系ババアじゃないけど。


「デネブちゃんの妬いちゃう気持ちはよーくわかったから、今度から見つからないようにやるね」

「なにその図太い宣言っ」


 よろしくお願いします! ムスコともどもっ。


「だから妬くとかそーゆーのじゃなくてっ。仲間うちでこういうことをされるのは迷惑だって言いたいの。いろいろめんどうごとの種になるから。パーティー内恋愛禁止!」


 ええ〜っ。


「これは恋愛じゃなくて『セ』のつくお友達の関係だから大丈夫」

「より悪いわっ!」デネブが、なまめかしくほほえむソアラに吠える。


 セのつくお友達……ぐへへ。

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