火の烏 凰鳳編 俄王の冒検 ※伏字不要のKONMAI対策完備

 腹の下のほうに、熱いような生温かいような、べっとりとした感触があった。眼前に直立する真珠色の刃を凝視して、血だ、と察した。

 不思議なことに痛みはまったくなかった。あまりに大きな傷を負うと逆に痛みを感じないやつか。これ、そうとうやばいやつじゃね……?


 見たくないのに、視線が吸い込まれるように刀身を下へとたどる。ゆっくりと見下ろした先には、深々と腹に突き刺さった剣と、一面を真っ赤に染める血だまりが――なかった。


 魔よけの剣は股間のすぐ前の草を貫いていた。少しずれていたら、童貞を卒業する機会を永久に失っていた。ズボンが失禁でちょびっと湿っていた。


「赤き火の精霊よ」どっと脱力し放心状態の耳に、呪文の詠唱が届いた。


 気がつくと近くにデネブが立ちはだかっていた。両手持ちにハートの杖を構えている。「我が前にその加護を示せ。仇なす者に炎の鉄槌を。マーズ!」


 おもちゃ然としたそれにはおよそ似つかわしくないガチな炎が吹き出す。直径数メートルの火球を形成し青空を駆けた。まるで太陽がもうひとつ出現したかのような熱と光が、辺り一帯に広がる。

 大あわてで逃げだす鳥に、燃え盛る特大の火の玉が追いすがり、その身を宙で焼いた。

 グゲェーッ、との絶叫が響きわたる。ピーヒョロロと牧歌的な音色をさえずる同じ鳥とは思えないほど、実にエグい鳴き声だった。

 俺は腰が抜けて動けないまま、炎に包まれ羽をばたつかせて墜落してゆくモンスターをただながめた。

 『火の鳥』の作者ってF先生だったっけ。

 そんなどうでもいいことを頭の隅でぼんやり考えていた。

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