異世界ならちまちま経験値稼ぎなんかしなくてもレベルMAX最強勇者賢者ですけどなにか?(きょとん)そんなふうに考えていた時期が俺にもありました
翌日から俺のレベル上げが始まった。
エリース近郊での、ランクの低い討伐クエストを受けてはその出没エリアに向かい、道中でエンカウントするザコモンスターを狩る。デネブが俺の盾となりつつ敵を弱らせ、とどめを俺が刺す、このパターンの繰り返しだった。勇者が魔道士に守ってもらうのはぶざまだったが、レベル差が一と八ではしかたがない。
実際、デネブは、白とピンクのふざけたコスのわりによく動き、魔法少女よろしく鮮やかにモンスターを成敗する。それに比べて俺の剣さばきのへっぽこさといったら。
だいたい、球技とかをやってない限り、現代社会で物を振りまわす機会なんてそうそうないだろ。この魔よけの剣も結構重くて、攻撃が外れやすいわ腕は痛くなるわ息はきれるわ。
何度でも繰り返す。こんな無駄なリアルさいらない。普通はこんな↓だろうが。
『世界最強で無双してますけどなにか?』
『レベル99ですけどなにか?』
『SSクラスですけどな(略)』
『勇者ですけど(略)』
『魔王で(略)』
『賢者(略)』
『チ(略)』
馬鹿のひとつ覚えのように無双アンド無双、異世界転生=チート能力贈呈なんて、猫がおしっこしたあと砂をかけるぐらい当然の流れだろう。
なんで俺が来た世界だけ業界の潮流に逆行してんだよ。
「レベル、上がりませんね」クエストのモンスターを倒し、草に腰を下ろしてひと休みしているとき、デネブがぼやいた。「どうして勇者様の攻撃や経験値は小数なんでしょうか」
こっちが聞きたいわ。
なんか、ダメージだけじゃなく、稼げる経験値まで〇・一とかだった。もちろん俺のほうだけ。デネブには普通に入ってる。にもかかわらず、次のレベルに達するには、俺は一万だとか必要になってる。ふざけろ。
デネブは、クラスが勇者だから成長スピードが遅めに設定されてるんでしょうかね、と愛想笑いでフォローした。うん、遅めって次元じゃないから。
空を見上げると、浮かぶ雲を背景に鳥が翼を広げ、ゆるく弧を描いていた。ピーヒョロロと鳴いている。
タカかな、とぽつり言うと、トンビです、と冷静かつ速やかに訂正された。
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