勇者に授けられし聖なる剣と聖なる鎧、秘められた真実が今、明らかとなる……そんな、まさか、伝説の武具に俺はおののく
おいっ、どうなってんだこれ?
俺は急いで装備品の説明を確認した。
【聖剣うグうソジュ】
聖剣ラグランジュの模造品。材質は段ボール。
おいこら、ふざけんなっ。
「うグうソジュ」ってなんだよ。外人が書いた日本語版のマニュアルかよ。つーかこの世界に段ボールあるんかい。やけに軽いと思ったわ。
じゃあ、まさかこれも……。
【聖鎧ヅヨぜつ.ハ人】
聖鎧ジョゼフ・ルイの模造品。材質は模造紙。
紙みたいにもろいと感じたらやっぱり紙かーい!
てか一文字も合ってねえし。このめちゃくちゃな字面で、よく最初まともに読めたな俺。おかしいだろ。
そんなことを言ってる間にも、状況は刻一刻と悪化していた。悟空も八戒も、足、腕とお構いなしに犬が食いつく。俺まで到達するのは秒読みだ。もう崖を登って逃げるしかない。
俺は頭上を見上げた。断崖絶壁。とても常人が登れる代物じゃ……って犬きたあ――――っ!!
岩肌に飛びつくと同時に、何匹もの犬が壁面にぶつかる音がした。っぶねえ、間一髪。
奴らは俺のほうに体を伸ばして吠える。近い近い近いっ。昭和のアニメで、犬から逃げて電柱に飛びついて噛みつかれてケツの部分が破けるぐらいの近さだ。パチモンの鎧もどきの端が食いちぎられた。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ。
たぶん、奇跡が起きたんだろう。あるいは火事場の馬鹿力というやつか。俺は自分でもびっくりするほどの速さで岩壁をよじ登った。
ほとんど九十度と思える崖を無我夢中で這い上がる。ロッククライミングなんてやったことがない。手も足もめちゃくちゃな動きで、いつ滑落してもおかしくなかった。
人間、生死の分かれ目に直面したらとんでもない力を発揮するもんだ。崖を登りきった俺は、草の上にへたり込み、肩で息をしながらそう思った。
腕全体と指先、そして犬に噛まれた箇所が、今になって痛くなってきた。自分が汗だくなことにもようやく気づいた。俺をねぎらうように木立がざわめいた。
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