虱の谷のナワシ力 / 崖の上のホ○ニョー

 下から犬が合唱のように吠える声が聞こえる。こわごわと覗き込んでみた。

 まず、犬よりもその高さにぞわっとした。十メートルか二十メートルか。こんなの犬がいなくても落ちたら死んでる。

 で、その犬。俺に向かって吠える奴らの数といったら。何十匹どころか百匹以上、確実にいる。おかしいだろ、この数。赤カブトでもいるのかよ。


 そして一番見たくないもの。三人のおっさんたち。すでに立っている者はおらず、全員が犬の餌食と化していた。距離があり、犬が囲んで見えにくいにも関わらず、赤黒い血の色だけははっきり見てとれた。

 俺は胃のなかがせり上がるものを感じて頭を引っ込め、げえっ、と吐いた。つもりだったが、胃が空なのか、わずかに胃液が喉を焼いただけだった。


 ――なにが勇者だ。


 レベルはカスだわ、装備はゴミだわ、仲間を見殺しにして自分だけ逃げ出すわ。おまけに無職で童貞で引きこもりでロリコンで毎日ロリ絵師謹製のロリロリなイラストでシコってて……。


「こんな勇者、聞いたことねえよ! 早く覚めろや、このクソな夢がっ!」


 俺は空を遮る木々の葉に向かって吼えた。その声はむなしく、鬱蒼とした森のなかに消えた。


 おっさんたちに一矢報いようと、犬コロどもに立っしょんの制裁をくだすべく、二十年間、未使用・新品の聖剣を取り出す。

 にっくき犬どもめ。こづかい稼ぎで日給二九九〇円のホ○ビにさらすこともうっかり検討したこの肉茎にくくきから放たれるニッキ水を浴びて、にくきゅうも震えるパニック級の恐怖を味わうがいい。

 縄師としての力、すなわち「ナワシりょく」を鍛えて、亀甲縛りでの聖水プレイを夢見る俺が、まさかしらみまみれの動物にお見舞いすることになるなんてよお。くくく、これも一種の獣姦かあ?


 変なテンションで自慢のメガキャノン砲の照準を獣たちにあわせる俺は、背後に忍び寄る影があることに気づいていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る