第六話――歓迎会!? 恋を見つけろおデブちゃん!―― 後編

 ヤマトは一息吐くと、今度はユキアの方へと体を向けた。


 「……さて、今度はユキア、君の番だな」


 「そうですね。俺もさっき見たくなんかの決意表明的なものを行えばいいのですかな?」


 「いや、君は別だ。他に見て欲しいものがあるのだ」


 ヤマトはノレンに身振りで何かを指図をする。

 その内容はユキアには伝わることはないが、ギルドメンバーを含めノレンが一番と驚き、そして奥の部屋へと入っていく。

 何か特別なことをするのだろうかと伝わるせいで、自然と眉間にシワを寄せてしまう。


 「まぁまぁ、そこまで厭そうな顔をするな。簡単な書状を見て、そしてその了解を聞かせてほしいだけだ」


 軽く聞かせるようなその口ぶりには似つかず、その本懐をしっかりと隠されている。


 「ヤマト。これで合っていますよね?」


 ノレンから渡された封筒の印を剥がし、その中の手紙を取り出す。

 ヤマトがその手紙を一瞥すると、小さく声を返し、それをユキアへと差し出す。


 「……」


 無言の返事でそれを受け取る。

 三つ折にされたそれを、ゆっくりと開く。


 「……そうか、そう、ですなぁ」


 書かれていたものは、初めはただの世間体の良さそうな時候から始まり、そして直ぐに本題にはいるのだった。

 ただ、古代種カタストロフィの復活に、高位ランクに存在する各ギルドの戦力補充に、首都王都にての第七ギルド階位のギルドマスターの収集の連絡だった。


 古代種カタストロフィ、それは昔、天変地異が日常だった頃に存在した、最高位種族である神、天使、悪魔、竜、淫魔の五種族の総称であり、それらが眠りについた時代から呼ばれ始めたものだ。

 そして今、そんな古代種カタストロフィが眠りから覚めようとしているのだ。

 覚めればどうなるか。そんなものは考えなくとも容易に沸き出でるだろう。

 そう、天変地異が起こるのだ。


 「それで? これを俺に見せた訳とは?」


 「その書状を見て伝わらなかったというなら、はっきり私の口から行ったほうが良さそうか?」


 「いや、結構。言い方を変えますが、戦力補充になぜ俺なんかを選んだのか。この都市の中にも強い奴は幾らといるのに」


 ユキアがせいぜい出来ることは、ただの意味も成さないタンクくらいで、攻撃手でも狙撃手でも、遊撃手でも潜伏でも斥候でもない。ただのソロで強いだけだ。

 自惚れを起こさなければ、誇張でも実力を測れないわけでもない。

 それだからこそ、余計になぜユキアを選んだのかを知りたい。


 「そんなもの簡単だろう。ただ今の家のギルドにはお前のような立ち回りをするものが欲しかっただけだよ」


 だからこそなぜそこで俺を。

 なんて言えるはずがない。

 今のヤマトがユキアに向ける、どこかを見透かすような視線に貫かれたのならば、吐く冗談も口から出ない。


 「このギルドは尖った才を持つ者が多いせいでな。盾職という盾職が存在しないのだ」


 「だから俺に白羽の矢がたったと?」


 深く、ため息を吐く。

 呆れでも見放しでもない、状況の整理のためだ。


 古代種カタストロフィの復活、ギルドへの勧誘。

 そのうちの片方だけでもユキアには驚きなことなのだが、今回ばかりは両方ある。


 考えてみれば、この世に生きるものとして、古代種カタストロフィの復活は阻止したい。そして向こうも復活を阻止するためにユキアをギルドに迎え入れたい。

 利害は一致している。

 特に目立ったあたりの不利益が無い辺り、気の迷いと称しギルドに加入してもいいと思うのだ。


 「入るか、入らないか……」


 気に入らなかったら抜ければいい。存外気に入ってしまったのならばそのまま入り続ければいい、だけなのだ。

 なのになぜユキアは答えを出せずにいるのだろうか。


 「なぁ、俺ってこのギルドに入って楽しめると思うか?」


 「さぁな。それは君次第だな」


 「君次第って……でも、どうなんだろうな」


 「だからそれはお前、ユキア次第なんだよ」


 中々に気持ちをはっきりとさせないユキアに腹が立ったのか、ガストが突然と口を挟んでくる。

 グチグチと言いたそうな顔をしていたガストは、ヤマトに一睨みされ、怯むとすぐさま隠れるようにこっそりとノレンの背後に移動する。

 こうしてみてみれば、中々に面白そうなギルドであることは分かる。


 ギルドマスターのヤマトに、副ギルドマスターのノレン。魔法使いのハルフィラにガスト。森で出会った青年アレスに鍛冶士のルキ。

 そしてどうにか心に残り続けているカレス。

 本当に楽しそうなギルドだ。


 「……ん? どうしたのかな?」


 「いや。なんでも」


 いつの間にか視線はカレスの方に向いていた。

 そんなユキアを心配して声をかけるが、肝心のユキアな生返事だけを返し、視線をそらすことも、慌て取り乱すこともしない。


 「そっ、そんなに見られると、さ?」


 恥ずかしそうに頬を赤らめるカレスに遠慮することなく、つま先から膝、太もも、鼠径部、くびれ、胸、鎖骨、耳先と言った具合にねっとり視姦の如く眺め見る。

 その内で、暴れるように警鐘を鳴らす鼓動にも気付きだす。


 「入るのか、入らないのか……」


 高まりを誤魔化すように口を開いてみるが、そんなもので治るはずもなければ、頭に造形される淫靡な妄想を振り払うこともできない。

 それらの想像を取り払おうとすればするほどに、余計に妄想が鮮明と脳裏に溢れてくる。

 普段からはそんな妄想をしないあたりから来るのか、全くと言ってもいいほどに消えないのだ。


 ……なんでこんなにも、胸のときめきが収まらないのだろうか。


 彼女が恥ずかしそうに赤面とさせる顔に、緊張しているのか、くびれや内股を艶かしく動かし、部屋のランプに反射された綺麗な髪。

 その全てがユキアの昂ぶりを加速させて……。


 俺。この人のこと、好き……なのかも。


 唐突に内心に生まれたものが、『恋』だったのだ。

 そう考えて見れば、昨日の夜に言われた言葉も、そのときはどこか見透かされているみたいであまり好かないと思っていたのだが、今ではそんな考えがなぜ出てきたのかと思うほどに思考が真反転している。

 きっと今この感情の移り変わりをロマンチックに表そうと思えば、こうなるのだろう。



 ――醜悪な少年はある日、美麗な少女恋をしたのだ。



 「俺……このギルドに入ります」


 ぽっと口から出てきていた言葉。

 その言葉を理解するのにも結構な時間が掛かった。

 自分が何を言ってしまったのか。その言葉でこれからがどう変わってしまうのか。

 考えてみれば、それは明白だった。


 「本当かいッ!?」


 「まっ、まぁ。なんか楽しそうだったし」


 「んだよ。なんかもっと面白そうな理由とかないのかよ。例えばカレスに見惚れて、とかよぉ!」


 「おいガスト! あまりユキアをからかうな!」


 冗談だよ冗談と笑って言うが、内心心を読まれたのかと気が気でないユキアは、苦笑いしか浮かべられていない。

 そんなユキアに、アレスが近くにより、背を大きく叩き笑顔を向けてくる。


 「これで一緒だな! ユキア、またこれからもよろしくな!」


 流石にこのテンションはきついと内心思い、これからの日常に軽くため息をつくと、腕を持ち上げ、抱きしめる勢いでアレスと肩を組み合わせる。


 「おっ! 俺も混ぜろぉ!」


 ヤマトとノレンの二枚挟みで叱られていたガストも、アレスとは反対側に詰めより、体当たりするほどに体を摺り合わせ、肩を組んでくる。

 倒れそうになるが、負けじとアレスも押し込んでくるので、倒れることはないが……痛い。


 これがこれからの日常なのかと何度吐いたか分からないため息が出そうだったが、今回出てくるのはそんなものではなく、ただ純粋な笑顔だった。


 疲れるけど、これはこれで楽しいな。


 「みんなも来なよ、ほら!」


 「……しょうがない、今日の歓迎会は予定より盛大にやるぞ!」


 『おー!』


 ヤマトの掛け声で、ギルド総出での歓迎会の準備が始まった。

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