第四話――ギルドに加入!? 頑張れおデブちゃん!―― 後編

 日が完全に登り上がるすこし前、ユキアたちはとある広場に来ていた。

 辺りには簡単に抜かれただけの未だ雑草が残る地面に、その先には古い建築物だということを表しているのか、まるでどこかのコロシアムのような石で造られたドーム型の壁が存在していた。


 「ユキアよ。ルールは既にノレンに聞き覚えているであろう?」


 「まあ一応は、ですけど」


 ユキアの目の前には、荘厳なまでの威圧を放つヤマトが片手を腰に佩かせた刀にかけている姿があった。

 その様子は今すぐにでも戦いたいというのがわかるように、うずうずと過ぎる時間につれて肩が揺れだす。


 「なら早く試験といくぞ! すでに私の方は先のアレスとの高まっているのだ。この昂ぶりを沈められるのはユキア、お前しかいないのだ!」


 「な、なぁアレス。試験ってそんなに凄いことしたのか?」


 「いやいや。普通に戦っていい所まで行ってタイムアップになっただけだ」


 そこで胸を張ると、アレスは自慢のように「俺は受かったからな!」と大和革命軍のエンブレムを見せ付けてくる。

 そういって元気そうにするが、体の所々にひどい傷こそはないが、切り傷や打撲の後などが何箇所もあり、あきらかに辛さを我慢で隠していることが丸分かりだ。

 そしてその他にも。

 S級であるアレスがヤマトに負けたということだ。

 現にヤマトを見返してみても、その装備や身体には傷どころか、着崩れしているようなところは見当たらないほどに華やかさを放っており、実力の差というものが目に見えて分かる。

 そんな実力が分かってしまう。


 「既に武器も装備も整っているのだろう。ならば今すぐにでもやるぞ」


 武器などは部屋から出たときに返してもらえており、片手剣に、多少の鋼蜘蛛の糸を数本捻り作った鋼糸付きの投げナイフに、そして細工済みの両手剣だ。

 それらは片手剣を腰帯の帯に吊るし、投げナイフを同じく腰帯につけてあるポーチに、そして両手剣を背に。


 「自分は、いつでも」


 片手剣を抜けば、耳に慣れた軽く革が擦れる音が鳴り、淀んだ色をした刀身が日を返す。

 ヤマトも同じく腰帯に佩く刀を抜刀して見せると、その刀は黒く光を侵食させ、カチンというかか細い音を鳴らし鞘にしまった。

 明らかにヤマトの持つ刀に比べれば価値の低いであろう剣をじっと見つめ、そして小さく笑った。


 「中々に使い込んでいるのだな」


 「ええ。俺の唯一技能エクストラ・スキルに相性がいいのでね」


 「ほう。ならばその剣でどこまで耐えれるか、試してみるとしようか」


 ――静寂。

 その刹那に流れたものは静寂以外の何でもなかった。

 ただ互いが喋ることをせず、ただ互いが回りを静かにさせ、ただ互いが動きを止めた。

 ただそれだけのことでしかなかったのだ。

 静か、静寂、静粛、閑静、サイレント。

 そのときが、二人の間で刹那に起こった。


 「スキル、雷刃らいば雷纏らいとん放電ほうでん。さぁ――行くぞ」


 ヤマトの代名詞である、主属性副属性が同じ二重属性の雷属性での超高速、もとい光速戦闘だ。

 ユキアはそれを警戒しての意識を直線状にだけ警戒を集めるヤマトや弓兵に特化した戦い方を選び、剣を前方一直線に構える。

 そして。


 「そんな単純な、種もないもので私を止められるとでも?」


 目先には電気を大気中に迸らせ刀を勢いよく抜刀してくるヤマトがいた。それが判断できたのは、既に腕を動かし、抜き身のされた刀を防ごうと動いた後からだった。

 その鋼同士がぶつかり合った瞬間には、辺りに重く鉛のような音が響き渡った。


 「重すぎ、っだろ!」


 「……今を受け止められるのか。ならばすこしランクアップをしなくては、だな」


 ユキアは「冗談だろっ」というそんな一言さえ発することができないほどに力を腕に込めて鍔迫つばぜりり合いをしているが、ヤマトの方は辛さなどは一切と見えずに、ただ初手を止められたことがどこか嬉しそうな感じさえ覚えているみたいだ。

 このままでは不味いと、ユキアは防いでいる剣を一気に刀ごと薙ぎ払う。

 途端にまるで慣性がなくなったかのようにするりと、真横に刀が移動した。


 「……ほう」


 ヤマトは薙ぎ払われた自らの刀と、それを薙ぎ払ったユキアとを交互に見合わせ、口端に声を漏らした。

 先ほどの初撃は確かに手加減をしていたわけではないのだが、それでも簡単に防がれるほどのものではなかった。

 それをこの男、ユキアは簡単に薙ぎ払ったのだ。

 そして今度は、ユキアが眼光を針のようにし、血眼を大きく目を見開いた。


 「これも防ぐ、か。ならば……残り時間を五分に。全力を出してやる」


 一瞬にして刀が跳ねたのだ。

 弾き飛ばされ腕ごと仰け反ったというのに、それが宙に怪しげな冥光を奔らせながら構える剣に迫り来たのだ。


 「五分間だけなら俺にも勝機はあるかもなっ」


 軽口を叩き刀を滑らせ、弾かせる。

 実際に余裕がある、というわけではないが、口先だけでもそういうと楽になる感じがする。

 またしても滑らせる、だけではなく、まったく違うベクトル方向に弾かれた、ということに驚きを露にさせるが、すぐそんな表情は残像のように消え去った。

 そしてそのかわり――。


 「スキル。一連技いちれんぎ紫電しでんいちの型!」


 背後から声がし、そして刀が躍り出る。

 濃密な殺気を洩れたらしながら首元を狙う軌道から逃れるため、前へと足を滑らせ姿勢を低くし回避する。

 しかし一刀だけで終われるほど、優しいはずがない。


 「穿ち、刺し、貫き通せ! スキル・雷光戦架らいこうせんか!」


 急ぎで振り返ってみれば、炎の様に燃え上がる雷を纏わせた刀がこちら一点向かい突き進んできている。


 ――死。


 まるでそれを体言させたかのよなものが、体の奥底から飛び出でる。

 浮かび上がる幾つもの憶測の中でどう回避するか、と考えてみるが、全て本能に死の恐怖に染まり思考が働くことは一切ない。

 だがこれはなんというものなのだろうか。


 「触れれば、触れさえすればそれでいい……」


 感、センス、経験、本能、理性……真理。

 長いとも感じれる間で培ったスキルの使い道は、俺よりもきっとこの体の方が分かっているということなのだろう。

 そう思うと、焦ったような表情のままだが、自然と口角は上がる。


 「何を笑っている……なに、殺しはしない」


 笑みを浮かべていることに不審がりはするが、刀を止めることはなく、そのまま突き立てくる。

 ユキアはそれを、おもむろに持ち上げた質素な剣を、刀のど真ん中をおもいっきり打った。


 「完全反撃パーフェクト・カウンター……ははっ」


 剣が刀に触れた瞬間、一瞬だけ輝きを露にして弾き飛ばし、そのままがら空きのヤマトの胴体目掛け袈裟斬りを放つ。

 酷く耳障りな金属音が鳴る。

 ヤマトの胸当てを汚く斬り破ったのだ。


 「っく……」


 身を捩じらせながら剣の直撃は避けたが、苦しむような顔をし、すぐさま目の前から姿を消した。

 すると突然と回りに帯電し続ける電気が、勢いよく弾けるような音をかき鳴らす。


 「……電光石火」


 耳元にふわりと聞こえた声。

 振り返ってみるが、そこには何もなく、ただ放電しつづける電気のみが残っている。

 だが、腕は自然と剣を仕舞い、背に掛けてある両手剣に手を伸ばした。


 「――斬ッ!!」


 刹那に姿を現したヤマトが、雷を纏った黒色の刀を振り下ろしてくる。

 当たる、斬られる、押しつぶされる。

 そんな予想を隅に置き、ヤマトに似せる如く、剣を叩き降ろした。


 「チャージ・アクター!」


 ヤマトの刀から根こそぎ魔力を奪い取り、その勢いのままその場で一回転、帯電し続ける雷の魔力も奪い取り、そして剣を肩に乗せ、構えを取る。


 「チェンジ・アクター……」


 両手剣の腹が開き、「プシュー」と蒸気音がなり、そして完全にパッチが解除され、一回り大きくなる。

 そして――。


 「――弓を番えよ」


 剣を振り回せば、変形を行うように長弓の姿へと早変わりする。

 電気が無ければ高速移動できなヤマトは、この至近距離では弓矢を避けられないのか、逃げるように後ろへと飛ぶ。

 だが、そんなのは関係は無い。

 片膝を地面に降ろし、ヤマトへと標準をあわせる。

 飛ばす矢こそ持っていないが、弦に手を掛け、軽く引く。

 すると魔力が充填されはじめ、あたりの地面の砂を吹き巻上げ、髪が激しく揺れる。

 一瞬の無音、一瞬の煌き。

 その刹那に、弓と弦の間に、一本の矢が姿を現したのだ。

 それをしっかりと握り、力強く引き絞り、背を弓なりに反らせる。

 キラリと。瞳が一瞬、揺らいだ。


 「――っ」


 矢を放った。

 その矢は邪魔をする大気さえも突き通し、一直線にヤマトへと突き進む。。


 そして。


 「……ッ!?」


 ヤマトに当たる寸前で、塵のように霧となり、吹かれて消えた。


 「当たり前です。流石に殺すほどのものは使いませんとも」


 付け足すように「ルールでもそうでしょう」と言っておく。

 ユキア自身は途中から忘れていたが、先ほどの弓を引く瞬間に気づき、構築を甘くして寸前で崩れるようにしておいたのだ。

 だがヤマトの方は完全に忘れていたのだろう。

 先ほどのヤマトの呆けた顔を思い返せば、笑いを堪えるだけでも辛くなる。


 「……ぷはっ」


 笑ってしまった。

 もちろん笑われたのが自分のせいだと気づいたヤマトは、すぐさま刀を握りなおしユキアへと駆ける。


 「おのれユキア! 今私のことを笑ったか!? 笑ったよな! 許さんぞー!」


 「ごご。っごめん! ごめんって! でも本当におかしかったんですもの!」


 「ならなおさらだぞー!」


 無鉄砲にも刀を大きく振り回しながら特攻をしてくるのを避けるため、ユキアは全力でこの地面を駆け出した。

 その様子を見ていたアレスたちは大声で高笑いをしていた。

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