アルコール(1)

 僕、高木祥太はいわゆる潔癖症だ。

 小さい頃、父からもらったソフビのおもちゃをドブに落とした。洗っても洗っても汚れが落ちないような気がしてたまらなかった。ありがちだけど、手から血が出るまで洗い流した。そこからは人が触れたものにも拒絶するようになり僕の人生は、目に見えないもの(菌)との戦いなんだと知った。

 大人になった僕は、潔癖症が治るどころか悪化してしまった。そんな僕に試練が訪れる。週末の飲み会に誘われてしまったのだ。飲み会の場は潔癖症の僕にとって汚いもの製造工場でしかない。無駄なスキンシップやお酒が混じった上司のツバ。運が悪ければリバースしたものを見てしまう(もしかしたら触れてしまう)可能性もある。そんな危険な飲み会に参加することになったのは鮫島汀の存在だった。鮫島に誘われてしまったのだ。僕の大好きなアイドルと瓜二つのあの鮫島に!今日のお昼休憩の時間にそのクリクリとした大きな目とぷるぷるに潤った唇で話しかけられてしまったのだ。

「高木さんも週末の飲み会くるんですよね?私、前から高木さんとお話ししてみたかったんです。」

「はっはい。行きます行きます!」

「嬉しい!楽しみにしてますね。」

一通りの会話を済ませた鮫島は給湯室に消えていった。その場に残った彼女の柔軟剤の香りを嗅ぎながら、僕はアルコールティッシュで彼女に触れられた右手を除菌した。

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